第17話 逃げ回る者

 クロノスの支配から逃れるために一芝居打って難を逃れたと言っても、向こうも次から次へと追手を放ち、ひたすら逃げ回る日々を過ごしたということだ。


 そりゃそうだわ。ぴっかぴかの容器にパチンコ玉詰めた謎物体を赤ちゃんだと言われても無茶苦茶無理がある。差し出せと言われてハイよと差し出す瞬間と、それが何であるかの認識に掛かる時間の合計のごくわずかの時間稼ぎに過ぎない。


 謎物体であることに特化した究極の謎物体であるそれが何であるのかを認識するのには、狙い通り相当時間が掛かったようで結構時間を稼げたらしい。


 それが赤ちゃんではないという判断にそんなに時間は掛からないだろうが、クロノスにとって、まず何が起きたのかわからないで戸惑い、それが何であるのか認識するのに戸惑い、開いた口が塞がらない呆然としてる時間が。

 むしろ無茶苦茶無理があることそれ自体に意味があった。


 レイアがゼウスを連れてあの賢く気高い存在それ自身の女神、地敷大比売神のもとに引き渡すのに掛かる時間は充分に稼げ、そのときに難を逃れて存在それ自身の女神の守護のもと時間から逃げ回る日々を過ごしたのがあのしまだったとのことだ。


 なお、ひたすら逃げ回る日々にゼウスに協力した者は、その後ゼウスが最高神になった際、様々な特別な計らいを受け、その特権は今でも継続してる。食べ物が際限なく出てくるコルヌコピアとかそんな感じのものらしい。なにそれ俺もほしい。


 「でなわけで、あの島はオレにとってもはじまりの島なんだ。いまとなっては思い出だ。あの頃が懐かしい」ゼウスと兄弟たちがダンジョンのあった無人島を懐かしがって熱く語るうちに時間は深夜になっていた。流石にアランはそろそろ眠くなってきた。


 「なんならここで寝てくかい?」

ここはレイア神殿の離れとはいえ小屋ではない。集まったメンツが寝泊まりするくらいは可能で、寝具があり見るからにとても上質だ。

 異世界転生ものにおいて野宿生活からお城のふかふかのベッドにうつりその素晴らしさを描くのはほぼルールなのだがアランは既に最高の野宿「」(第七話参照)を経験してるので、なんのことはない、ふかふかのベッドなど所詮は究極の理想を実現出来ない制約のある存在の足掻きに過ぎない事、いわば必要悪である事を知っている。

 とはいえ「」をゼウスに所望するのは、きっとはじめにレイアからアランが言われたときに誤解したような、それの男同士版のアッー!って感じの大きな誤解を産む。電子の状態を支配するゼウスならばなんとなく出来るんじゃないかなという気もするのだが。

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