第11話 神宮凱旋

 ドラゴンにのって無人島から陸に戻る。レイアがアランを婿にとるにあたってアランの実家、その氏族、友人たちに挨拶に来るのは当然の流れではあった。しかしに、来ないほうが良いような気もする。

 選択肢が無い挨拶は無駄のような気もするし、レイアとヘレネの間には例の一件があるので嵐の予感しかない、レイアが言うにはそういうもんでもないらしい。決まったやりとりであってものためにやるものだと。

 アランにとっては里帰りだが、レイアにとってはお忍びで、どこまでもアランの妻で通すといっている。ヘレネノプールの人間は誰一人レイアを知らないから人間関係の問題は無いだろう。ただ、街の守護神ヘレネがレイア恐怖症を患っているのが気がかりだ。


 お忍びであるから、群衆に溶け込むように隣町からのインターシティに乗る。インターシティもロングレール化されて揺れが少なくなるのは良いことなんだが、本当にリアリティがない。コクッコクッっていう音が旅情を演じていたのでそれがなくなると寂しいもんだ。

 インターシティは昔はヘレネノプールの中心地ヘレネ神殿前の地上駅のみの停車だったのだが、街のはずれの街の中と外を分ける川を渡った1つ目のハイリング駅を出ると地下に潜り神殿前駅は今や地下駅だ。実に旅情が無い。神殿前はちょっと配慮する必要のあるひとと出会う可能性が微かにあるので、郊外のハイリング駅からローカル線に乗り換えて、家の最寄駅で降りる。

 駅前大通りも区画整理が他の駅よりも遅れており駅前大通りのシャッター街を斜めに突っ切るアーケード街が資本主義の矛盾を如実に示している。この街のメインストリートはこの斜めに突っ切るアーケードの方なのだ。アランはここで生まれ育った。


 小さい頃は…あぁダメだ。小さい頃から仲間外れや暴行にあっていてそれは大きくなってもおとなになっても変わらなかった。要はこの街にはろくな想い出がない。


「顔色悪いわよ。過去は過去で、今はあの頃のあなたじゃないわ。まず今のあなたは彼らを罰する力も正当性もある。彼らを罰したとしてもあなたを咎める事ができる存在はこの街にはどこにもいない。やっちゃっていいわよ。」


いやいや、そういう問題じゃないでしょう。心的外傷ってのは何かをやって治るってもんじゃない。


「あら?そう? あなたは悪くないのに不条理に暴行を受け、まわりもそれを止めなかったし、大人たちまであなたが悪いと糾弾した。それだけであなたはこの街を罰する理由としては充分よ。そして、それを実行する能力もあるならどうする?」


「過去は過去。死ぬこと以外はかすり傷。さいわい五体満足に今生きてる。なら無意味な破壊はやめておこうと思う。もちろんあらためて降り掛かる火の粉は払います。」


 五体満足でいられなくなった何かの出来事があったような気がするが、うん、あれは夢だったんだよ。はじめからなかったんだ。


 実家に帰り、婿入りする決意を両親に伝える。また、レイアもいつになく品のある上品な装いでまっすぐにアレンの両親の目を見つめ、

「アランさんをわたしにください。必ず幸せにしてみせます。」


 レイアが嫁入りしてくるのではなく婿としてとるって話なので、拗れるかもしれないと少しは心配していたが、圧倒的に高貴なオーラを放つレイアに気圧されたのか上機嫌で嬉しそうに、うちのバカ息子をよろしく頼みますと前向きな回答を得られた。まあまあよくある言葉ではあるんだが何故かのところに異様にアクセントが置かれてたような気がする。

 しかし、二人のときにはスゲえくせに親の前だけカマトトぶりやがって。まるで貴族のご令嬢のようにしか見えなかった。そりゃあド平民のうちとしてはそういうコネ出来たら名誉な事だし、騙されいたとしてもここで断って拗れるのは社会的な死を意味する。選択の余地ははじめから無いんだよな~。


 まあ、実際にはまがりなりにも女神様の端くれなんで貴族のご令嬢どころの騒ぎじゃないし不興を買えば社会的な死どころではなくて存在の消滅だから、両親が話拗らさなくてよかった。


 数少ない旧友にも紹介したが、当然の如く「リア充末永く爆発しろ!」とのありがたい祝辞とボコボコにをいただいた。まあ、全然痛くないんだけど。このノリをレイアが勘違いして恐ろしい罰をあてないか心配だ。


 さて…。この地の氏神さまへのご挨拶がちょっとだけ憂鬱だ。いや、反対とは言わせないんだけどね。もともと氏神ヘレナがアランに確認もせずにレイアにお供え物として献上したんだから、それをたしかに受け取ったってだけなんだから。


ヘレネ神殿の祈祷受付で昇殿を申し込む傍ら、ヘレネがガクガクブルブル震えている。大丈夫かよ?


結果から言うと、「こちらから献上致しました。お気に召したようで光栄です(震え声)」ということだった。


 これ、奴隷として売られていったら、主人に気に入られて売り主より立場上に行った感じかな。売るのも人、売られるのも人、買うのも人なんだからきっと昔からちょくちょくあった話なんだろうな〜。

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