第12話 殿堂入り

 レイアに連れられてレイア神殿に着く。門前には狛犬ならぬ狛猫?レオンとそっくりな白い獅子が子猫を引き連れているのと、何処かで見たような黒い猫が子猫を咥えている像が置かれている。レイアの神使はライオンなのは知ってるが、黒い方はなんかのシャレだろうか。


 門をくぐり抜けると「レイア大神さまのおな〜り〜」と号令が掛かり、使用人たちが一列に並び一斉に頭を垂れる。


 旅の間お互いを理解したつもりになっていたし人間界の常識は通用しない事もわかってたので彼女が何者であってももはや動じない鋼鉄の心臓に毛が生えたと自負してたが、屋敷というか宮殿というか神殿の敷地や建造物の大きさ、そしてそこでの大人数の使用人に少しビビる。


「怖がらないで。ここの人たちはみんな生前に善行を積みに積んだひときわ徳の高い人たち、筋金入りのいい人たちばかりよ。」


いや、悪意が向けられるとか彼らが怖いとかそういうのじゃなくて、この状況とそれを築き上げてきた貴女が底知れなくて怖いんですけど。本当に何者?


 必要もなく巨大な屋敷に住むのは反社とかそういう類のイメージがあるのにも説明してくれた。子どもが一斉に帰省するときに必要があってこの広大な敷地にたくさんの家屋が建っていて、維持に必要があって使用人がたくさん居るとのこと。必要もなく周囲への威圧の意図をもって巨大な神殿になってるわけではなくて、これらはすべて必要があるものだということだ。


 神殿内すべてが彼女のものではあるが本人が生活する母屋はそのうちの一つでそれ以外は子供たちの部屋みたいなもので母親としてベットの隙間にエロ本隠してないかチェックくらいはするがそれ以外で無闇に立ち入ったりはしないそうだ。


 アランは婿殿なのでレイアの暮らす母屋に住む事となった。なお、こっちは別荘というか仕事場であって本当は二人だけの秘密の楽園のあの無人島が夫婦の本拠地なのだとか。


ーーー数日後。


 神殿内の空き家は子供たちの帰省時に使われると言ってもわざわざガキのいる日にこっちに来ないから、会うことはないと高をくくっていたら明日にも帰省してくる子が居るらしい。使用人たちは忙しそうに迎え入れるための準備をしていた。

 レイアも晒巻いて三角巾被って白い長靴履いてエプロンかけて給食用ですか?ってくらいのバカでかい鍋いっぱいの白濁したスープにドサドサと食材を入れて1メートル以上ある棒を突っ込みかき混ぜてた。


手伝てったおか?何すればいい?」


 忙しく働く人たちを指咥えて見てるわけにも行かないのでアランが申し出ると、レイアはまるでヤバいものでも見られたかのような、血の気が引いたような怯えた顔になり怒るように「あなたは何もしないで!」と叫んだ。


 いままでのいちゃいちゃアツアツだった会話からしたらそれは唐突に絶対零度の冷たさを感じる。いや、女性には周期的にむっちゃ不機嫌になる時があるものだとは聞いているが。困惑していると、それを察したのか顔を紅潮させて、


「いや、ほら……、あなたまだここでの日が浅いから。ここには人間にとって危ないものとかもあるし……、それに……」


なんかソワソワして様子が変だ。


「式の準備であなたが新郎さんだし。」


 なんとなくそんな気はしてましたけど、レイアさん、そういうあなたは花嫁さんじゃないの?何つくってんの?と聞くと、子供たちが帰省したら必ずおふくろの味を所望するから汁物だけは用意して、残りは仕出しを注文してあるとのこと。


 式に参列するために子供たちも帰ってくるらしい。彼らとうまくやってけるかな。母親が突然どこの馬の骨とも分からない男持ち込んで再婚するなんてホザく訳だから、子供たちと敵対するのはもう宿命のような気がする。


 その日の夜、翌日の式に参加するためにやってきたのは、第一礼装に身を包んだ天空の最高神ゼウスとそのお妃様のヘラ大神、海を支配するポセイドン大神、豊穣をもたらすデメテル大神、死と再生の神ハーデス大神だそうだ。

 レイアがなんとなく偉そうだというのはヘレネの態度から気付いていたが、それにしてもとんでもないゲストだ。用事があればこちらから参詣する相手であって間違いなく呼びつける相手ではない。そして遠路遥々参詣しても門前払いされても文句は言えない。

 そもそもそんなとびきり高貴な神々を呼ぶ事自体考え付かないし、呼んだところで来るとは思わない。基本的に彼らの御名は冗談とかありえない事を言い表すための言葉であって招待状出したとしてもそれ自体ネタだ。ときおりそういう冗談が来るので同封されてるお賽銭次第では神官さんが代わりに式への電報送っているとは聞いたことがある。

 ところが、レイアの招待は彼らでさえも応じるというわけだ。彼らでさえ軽んじることが出来ないほどレイアが大物だということだろう。

 それぞれの最高神が出席する式典。その場にアランの似つかわしくないこと似つかわしくないこと。でも式典ではレイアといっしょに主役だ。既に胃が痛い。

 

「よく来たねぇ。都合付いたんだ」


 レイアは天空の最高神ゼウスを前にしても一歩も退かない。まるで昔からよく知ってる間柄のように完璧タメグチだ。逆鱗に触れないかアランは肝を冷やしているが、次のゼウスの返答で冷えた肝はカチンコチンの冷凍フォアグラに変わる。肝硬変じゃないぞ。


「そりゃあの呼び出しとあらば全部ほっぽりだして駆けつけますよ」


 ゼウスの雷鳴なみの破壊力の爆弾発言。アランはムンクの叫びのような顔で固まった。ゼウスとレイアは、まるでじゃなくて本当によく知ってる間柄でした。文句なしに世界で一番理解し合ってる間柄と言って間違いない。


 ゼウスの母ということは、ここに参列してるポセイドン、デメテル、ハーデスの母ということでもある。この神々が兄弟神であるというのは有名だ。でも確か親を克服して地位を得たんじゃなかったっけ?


  「独立して手がかからなくなった子供」とは………。前言撤回。何があっても絶対に敵対してはならない。なんならこっちが避けてても向こうの虫の居所ひとつで雷に打たれ、コンクリートで固められて海に沈められてもこちらは何もできないし、彼らにどんなにひどいことをされたとしても彼らを罰するものなど存在しない。

 いや、ひとりだけ彼らにおしおきが出来そうなひとが思い当たるが、その時自分はもう手遅れだ。うまくやっていくか関わらないしかないのだ

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