第9話 登竜門を越えた鯉

 鯉は滝を遡り登竜門を超えると竜になるという。二人とペットたちは川に沿って下っている。

 清流には魚は住まない。生物は環境から物質を取り込み、自己の肉体を作り出し、またその肉体が環境から物質を取り込むということのはてしない繰り返しが生きているということなのだ。当然環境に自分が回収するべき物質がなければ生きられない。

 水は汚れているのではなく、いろいろなそれぞれの立場にとっての食べ物が浮遊しているのだ。見た目美しい澄んだ湧水は何もない、水の中から物質を取り込む生物にとっては不毛の水なのだ。

 下流にいくに従って藻や水草が増えていきそして濁ってきてちょうどいい具合に淡水魚が増えてきた。水源地の澄んだ水が流れ流れてここに来るまでの水を汚してるように見えたものすべてがここの魚たちの生命に役立っている。

 ここらで仕掛けして今夜は鮎の塩焼きでも食おう。と竿や釣り糸になりそうなものを探してたら、ライオンと虎が直接川に入り込んで魚の群れを荒らしてた。鯉の魚群をやりたい放題に荒らして下流まで真っ赤に染まってる。こりゃアカンわ。

 ガタイがでかい分、鮎みたいな雑魚には興味がない様子でアランとレイアの分が無くなるって心配は無いのは一安心といえば一安心なんだが、川の水が真っ赤になるのは下流域から事件性が疑われても仕方がない。

 バシャンっと鮭が跳ね、クマさんがそれを捕らえる。うーん。どっかで見た光景のような。だが思い出せん。虎を完封した自信となってクマさんがいようが何とも思わない。ここは無人島なのだからクマ退治の流れ弾というのも気にしないでよいしそもそも200キログラムの虎を手投げで低軌道に投入(衛星の速度は音速の8から20倍くらい。銃弾の速度は音速の2倍から3倍くらい)出来る強化された肉体にとって弾丸など小石が跳ねて刺さって痛いくらいのものでしかないからもはやそれほどには気にならない。無双チートは心の余裕にもつながるのだ。

 よそのクマさんは鮭を、虎とライオンたちは鯉を、アランとレイアは鮎をと住み分けが出来てて競合が起こらない。

 魚たちにとっては世界の終焉でしかない。水の上のほうでは、お互いいい加減にしとけよと軽く牽制しあってはいるが、魚は豊富にいるので、基本的に平和なモンだった。


ーーーー

 その頃水面下(物理)では、世界の終焉としか言いようのない事態に魚たちが困惑していた。石の影に隠れて勇者の錦鯉、賢者の鮎、聖女のトラウトサーモンが会議をしてた。

「このままでは我々は全て食い尽くされます。それはすなわち世界の終焉。出来ることは全てやって抗わなくてはなりませぬ」聖女のトラウトサーモンが言う。

「古い文献に、滝を登りきった鯉は龍になるといいますぞ。」賢者の鮎が思い当たったように提案すると勇者の錦鯉が、「やれるかどうかはわからない。やって失敗したならそれまで。やらないまま絶滅させられたらきっと後悔する」と滝を遡り龍になってこの危機を乗り越えるという荒唐無稽としか言いようがないが、ほぼ万策尽きてそれ以外残ってない選択肢を試すことにした。

 しかし錦鯉の勇者は気付いていなかった。上に居るのは龍にとっても個別撃破がやっとの猛者たち、ライオン、トラ、ツバメちゃん(アラン)が晩飯のおかずを賭けて本気で漁をしているということに。

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