第8話 鷹を鷲掴み
猛虎集団を引き連れ、先日確保したウサギとでかい卵をエサに餌付けを行う。いや、でかい卵の方は確保というより現地に行って啜るという方が正しいな。
さて、食住は確保したしこのまま無人島でスローライフに転じても良いが、故郷ヘレネノプールに帰る意志があろうとなかろうと、多分ここではない何処かに連れて行かれるような気もする。
しかし海に隔絶されているし、戦士たちが来たという歴史は抹殺されているから、来たときの舟もここには存在しない。彼らははじめからこの世に存在していないし、彼らが行った事による影響はどんな些細な事も跡形もなく完全に取り消されている。では何故アランはここに居るのか?ここに連れてきた、自分の覚えている手段とは別の何かが残ってないだろうか?たとえば空を飛ぶとか空を跳ぶとか空を翔ぶとか。
「ねえ?、一連の流れが無いことになっているなら、僕はどうしてここに居るの?」
と聞くと、レイアはついにこの時が来たのねといった困惑した顔をして答えた。
「コウノトリが運んできたのよ。」
嘘だ。絶対に嘘だ。いままさに我が子を騙してますって顔に書いてある。
空を周回する鳥がピーヒョロロロロローと鳴く。
「ほら、鷹よ?」
いやいや、あれトンビ。ってまんまと話題逸らしに引っかかってしまった。見ていると、ウサギの残骸めがけて急降下してきた。
虎とかライオンがおるのにようやるわ。いやもう食事は終わってるので別にウサギの残骸くらいくれてやっても構わないんだが、ふとさっき海を超える可能性について考察していた時に鳥という案が出たので鳶を鷲掴みにしてみた。
「コイツで人里にSOS要請届けられないかな?」
「え?どうしてそんなにここから出たがってるの?二人だけの秘密の楽園なのに。」
まるで用意したプレゼントが喜ばれなかったかのような残念そうな顔をしてレイアが言う。
黄金色に染まる森に湖、朝日に照らされ銀色に光る海岸。ここははじまりの地にして聖地で、いつでも帰れて、帰ってくるべき、人が本来居るべき場所であり他に行く必要などどのにもないのだから、いつまでもここにいればいいとレイアは言う。
でも用事があるから年に数回は神殿に行かなくてはならない事も告げられた。そして用事が終わったらまたここに帰って来ようとも。
どこにも行く必要がないったって、ウサギ肉も見飽きた頃だし、そろそろ他のものが食べたい。
確かにいつ如何なる場面にも快適な温度、澄んだ水、食べ物に困らないのでここでスローライフもアリだ。虎と闘わされたってのも当面の必要があったことでも遭遇した事故でもない。コイツが意図を持って仕掛けた試練だ。そうはいっても毎日毎日同じものだと流石に飽きるし、同じものだけ食べ続けて生きていくように人体は出来ていない。
うん、今のアランにとって必要なものはウサギ肉以外のタンパク源だ。
魚が居るとこないかなと聞いたら、ここは清流すぎて栄養がないから魚が育たない。釣るならもっと下流だということだ。釣りに行こう。
鼻歌をうたいながら川を下っていく。川のほとりに
「なんかとても失礼な例えしてない?」レイアがちょっと膨れてる。魔女ではなくて女神だが、きっと年老いたなんていう甘っちょろい概念では語り尽くせない年齢だよな。
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