第4話/クエスト発生
「ブレイブ飛ばせ!」
「キュアッ!」
「お願い! 無事でいて!」
声のする方角へと駆け出した二人は仲間との通話をそのままに、ブレイブの背へと跳び乗って森の上空を進んでいく。
その様子を通話越しに聞いたメンバー達は、各々の反応を返す。
『ぬぅ、そこは比較的安全なエリアのはずだが、なぜ人の悲鳴が聞こえるのだ……?』
『言ってる場合かキングの爺さん! とりあえず急げギルマス!』
『クッソ、転移呪文が軒並み全部使えなくなってる……!』
『こっちの方も試してみたわルークちゃん。おそらく転移に関する呪文とシステムが軒並み使えなくなってるわ。理由は分からないけど応援は期待しないでちょうだい』
『えぇっとえぇっと"
『こんなこと想定してないよ普通!! えーい! このっこのっ! なんかの拍子でフレンドワープが使えるようになれっ!』
『ぬおっ!? 拙者達も見つかったでござる!?』
『三十六計逃げるに如かず!』
『俺は! 俺は……俺なんもできねぇ!?』
『ルーク! そこは『
「だぁっ! だから一人ずつ喋れっての! それとゲオル! お前『アーク』にいるなら大陸すら違うだろ!?」
一部はルークとミユキ達のいる場所で起きている事件の状況について不思議に思い、一人は冷静に状況を分析し、またある者はパニックに陥る。
そんなギルドメンバーに、またしてもツッコミを入れながら目的地に向かってブレイブを急がせていくルーク。
しかし、会話の中に気になることがあったのか、ミユキはメンバーの中で一番冷静な『クロウ』に向けて聞き返した。
「ねぇクロウさん! ワープ系が全部使えないってホント!?」
『えぇ。どのような意図があるか、まだはっきりと断言できない。けど、私達をバラバラにフロンティアの各地へ飛ばさないといけない考えがあるのは分かったわ。その証拠に合流に使えそうなワープ系統は使えなくなってる』
「そ、そんなぁ……」
クロウの推測に思わずうなだれてしまうミユキだが、ふとあることに気づく。
「! でもお兄ちゃんは『ブレイブ』を呼べてるよ!」
『えぇそうね。いくら互いに距離があるとしても、ステータスはまだしも移動能力の高い従魔を封じないのはおかしい……一先ず、そちら側の用事を終わらせてちょうだい。できれば落ち着いてから整理したいの』
「うん!」
転移に関するものを封じたとはいえ、なぜ移動能力の高いブレイブなどの使い魔を封じなかったのか……しかし、今考えることではないとミユキは前に向き直った。
「落ち着けブレイブ……よぉーしよしよし、良い子だお前は」
その横で、ルークはブレイブの背中に装着されている鞍から伸びる手綱を握り、目的地へと飛ばしていく。
その操縦技術は洗練されており、もし現実に竜に乗るという職業があるのだったら名を知らぬ者はいないほどの腕前と思わせるほどだ。
実際、現実ではないものの『F.F.O.』内のイベントに従魔に乗って速さを競うというものがあった。
もちろん、ルークはそのイベントで何度か1位を取ったことがある。
それほどの腕前を持つ者が、それこそ魔物の中でも上位の種族である『
その速度はお察しである。
あっという間に声の発生したであろう場所の上空までたどり着いたルーク達は、その場所を見下ろす。
確かにそこに人はいた。
中央にある装飾の凝った馬車を、何台かの馬車が周囲を護衛するように存在しており、その馬車から出て来たであろう兵士たちが、『
その魔物の姿に、ルークとミユキは見覚えがあった。
「皆、原因が分かった! ゴブリンによって貴族っぽい人が襲われている!」
『ぬっ、ゴブリンだとな?』
『……ってことは、あれか! 『F.F.O.』の『襲撃クエスト』か!』
ルークの報告にいち早く応えたのは鍛冶師のユーリだ。
――『襲撃クエスト』。
『F.F.O.』をプレイしている際に受けられるコンテンツ――『
その中でも都市と都市の間を繋ぐ街道周辺を歩いているとよく遭遇するクエストが、この『襲撃クエスト』だ。
内容としては、街道を行き来する商人や貴族が目的の街へと移動する際、魔物による襲撃を受けてしまったところを、すかさず助けることで報酬を受け取る、というものである。
初心者プレイヤーのように、自身のレベルが低すぎて受けられるクエストが少ない時、なるべく早くレベルを上げたいプレイヤーがこぞってクリアしていく光景は、高レベルのプレイヤー達にとって懐かしさをよみがえらせるという。
しかし、高レベルになっていくにつれ襲撃クエストだけでは、得られる経験値やアイテムの量も少なくなるため、襲撃クエストが発生しても無視する者もいるという。
「ど、どうするお兄ちゃん……? 助ける……?」
『……正直なところオススメできないわ。私が見る限り、おそらくあの馬車は"貴族"が乗っているわ。まだこの世界の状況が分からない以上、下手に動くと却って危険だわ』
「…………」
おろおろとし始めたミユキの問いかけ、そしてあくまでも自身達の安全を優先するように勧めるクロウの考え。
確かに、この世界がどのような状況なのかは今のルーク達では分かることもできない。
なぜ自分達が呼ばれたのか、なぜ自分達はゲーム内のステータスなどを引きついで『
考えれば考えるほど悪い方向になっていきそうで……その前にルークは、
「ふんぬぅっ!!!」
「お兄ちゃん!? いきなり頬っぺた叩いてどうしたの!?」
――自分の頬を思いっきり叩いた。
しかし、思いのほか力が入りすぎていたようで頬に真っ赤な紅葉を咲かせるルーク。
そんな状態になったからなのか、すっきりとした顔でミユキたちに向き直ったルークは自分の考えを話す。
「いっ……! つぅ……! い、いや、こういう時こそ一発気合入れろって爺ちゃんが言ってたからさ。あ、俺は助けに行くつもりだ。それでいいかクロウさん?」
『……本気なのね? ……分かったわ。でも、何か困ったことがあれば頼ってちょうだい。私達もその分頼らせてもらうから』
「え、た、助けていいの……?」
「あぁ、流石にゲームだろうが異世界だろうが見て見ぬふりはできないしな。ミユキも助けたいんだろ?」
「! うん!」
「なら行こう。後悔しないためにも! 行け! ブレイブ!」
「キュイアァッ!!!」
ミユキの答えを聞いたルークはブレイブの手綱を引いて急降下していくのであった。
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~~~~
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『陣形を崩すな! 『
『りょ、了解!』
『ぐあっ!』
『ゼン!? この野郎っ!』
『待て陣形を崩すなっ! くっ!』
「ひっ……うぅっ……!」
「お嬢様っ、落ち着いてくださいっ……! 彼らならきっとこの状況を切り抜けられるはずですっ……!」
怖い。
外の世界がこんなにも怖いなんて。
こんなことになるならあんな我儘なんて言うんじゃなかった。
そう後悔しても、もはや遅すぎる。
『ゲギャギャギャギャギャ!!』
『グギィ、ゴギョゲェ!』
『ゲヒャヒャヒャヒャ!!』
『こいつっ、ゴブリンが連携を組むなんてっ……!』
『魔術の準備できました!』
『よし! 放てッ!』
音だけでも分かる。
ここを出る際、気安く話しかけてくれた優しい人達が倒れていくことが。
必死に抗っているはずなのに相手に翻弄されていることが。
私達の状況が絶望的なことが。
私が、「街に出たい」なんて言わなければこんなことにはならなかったはずなのに……。
あぁ、神様。
こんなことを願うなんて図々しいと思います。
でも、今は、今だけは皆を助けてください……。
『隊長っ……! もう持ちませんっ……!』
『くっそぉ……! せめて、お嬢様だけでも――!?』
『グギャッ? グギッ……ゲヒィッ!?』
……?
音が止んだ……?
いえ、音は止んでいません。
でも戦いの音は止んでいます。
その代わりに、なにかが羽ばたくような音が――
『皆さん伏せてください!』
『――『ドラグーンダイブ』!!』
『ゴァォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
「お嬢様ッ!」
「ッ……!?」
瞬間、世界から音が消えました。
いえ、そう錯覚するほどの轟音が馬車の外で鳴ったのです。
馬車が大きく揺れ、飛んできた路傍の石が馬車を打ち据える。
まるで嵐が来たかのような暴風が外で巻き起こっているのが分かるほどの衝撃が突き抜け、絶望すら吹き飛ばしていきました。
そのような状態がわずかばかり経った頃、ようやく揺れが収まったのです。
恐怖に目を伏せていたあの絶望の時間が過ぎ去ったと思い、ようやく目を開けることができた私は太陽を遮るほどの影がかかっていることを理解しました。
「あっ……」
「お、お嬢様っ……まだ安全になったわけでは……」
『あー、えーっと、こほんっ! 大丈夫ですかー?』
『あ、あんたは……』
『まだじっとしててください! 貴方は特に危ない状態ですから!』
『キュルル!』
『うわぁっ!? ワ、ワイバーン!?』
『じっとしててくださいって!』
およそ先程まで走っていた緊張感など吹き飛ばすような声色の存在が外にいる。
その声には不思議と安心感を覚えるようで……私は思わず馬車の扉を開けていました。
そこにいたのは……
「お、大丈夫ですかね? ちょっと荒っぽくやってしまったんですけど……」
「わぁっ……」
見惚れてしまうような男性が立っていたのでした。
『竜の巣(ドラゴンズ・ネスト)』のメンバー、自キャラのステータスと共に異世界へと転移させられました @cloudy2022
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