第45話 光輝と獣面と義烈の激突
教経達が黎明解放戦線と一時的に休戦し、無尽烈竜トランギニョルの対応を進め始めたちょうどその時。
「プシュカルプシュカル⭐︎きらきらビーム」
バシラウス要塞近辺の平野で繰り広げられている、帝国と連合の戦いの中においてそのような言葉が響き渡る。
まるで子供が作り出したような幼稚な名前の技。一体何処の誰が? という疑問を浮かべる者は、その場には居なかった。何故なら───
「ぎゃあああああああ!?!?」
「全員散らばれッ、散開して狙いをしぼら─」
その言葉と共に放たれる光の奔流が、余りにも呆気なく命を奪っていくのだから。
ラタ・プシュカル。レムナール帝国第九軍団総督たる彼は、帝国の総督にのみ与えられる軍服を極限まで改造を施されたフリフリの服を着て、周囲に浮かぶ複数の光球をスポットライトとして扱い、まるでアイドルのように踊っていた。
だが周囲にいる敵兵達は気が気でない。その踊りに連動するかのように光球から無数の
接近しようにも、回避不能防御無意味の一撃必殺が五月雨の如く乱射されている為不可能に等しい。そして一歩でも足を止めてしまえば最後、あらゆる方向から放たれるビームが哀れな犠牲者を増やしていく。
文字通りの虐殺、そうなる筈だった。この場に彼が居なければ。
「オオオオォォォォッ!!!」
空間が歪んだと錯覚する程の圧縮された大気が、放たれたビームを弾き飛ばしていく。物理法則さえ無視した現象を引き起こした男──連合が誇る人類種最強、ガルド・フォーアンスは自分の同胞を屠り続けながら踊り狂うラタの命脈を断ち切らんと吼える。
凰翼竜スパルナとの契約を経て、大鷲の頭部と翼を備えた異形の強さを獲得した男は手にした巨大な大剣を振るい、ラタの頭蓋を粉砕すべく風を纏いながら疾駆する。
颶風。地を駆ける純白の風と化したガルドは手にした大剣に一気呵成に風を帯びさせ、万象断ち切る破壊の剣と化させた。
ラタは迎撃するかのように数百ものビームをガルドの致命傷足り得る箇所─頭部、胸部、首の根本─に狙いを定め放つ。
「その程度ッ!!」
だが足りない。ラタの迎撃は、何もかもが足りなかった。永きに渡る戦いを経て研ぎ澄まされた経験が、ラタの狙いを放たれる前に嗅ぎ分け即時に対応していく。
ガルドの周囲に浮かぶ風のレンズが、ビームの軌道を捻じ曲げていく様を見てラタは大きく舌打ちをし、
神速と評して差し支えない程の速度と、神域にまで至った武の合わせ技。常人には対処のしようが無い──
「行かせん」
──筈だった。
その声と共に、ガルドの突撃は止められる。それを成し遂げたのは、帝国第四軍団総督のアラン・スタリオルだった。
まるで野獣の如き疾走が、颶風と化したガルドを受け止める。激しい鋼と鋼の激突、迸る火花と共にギャリギャリと大剣と長剣の鍔迫り合いの音が戦場に鳴り響く。
「ありがとアラン。さあてガルド・フォーアンスさん? お・か・え・しっ♪」
「ええい、面倒なッ」
満面の笑みを浮かべながら、自らを殺そうとしたガルドを文字通り滅却せんとラタは周囲の光球を動かし、そして破滅たる光の奔流を浴びせ始める。
ガルドは膂力に物を言わせアランを弾き飛ばし、背に備えた大きな純白の翼を羽撃かせる。
勢いよく空中に舞い上がるガルドを見据え、ラタとアランは舌打ちをしながら次なる手を打ち始めるべく言葉を交わす。
「うっそぉ、あれ避けるのかぁ……。っぱ人類種最強様は違いますなぁ」
「……あれですら、本気には程遠いだろうな。予定通り、やるぞ」
「あいあいさー」
短く交わした後、アランは手にした長大な両手剣を掲げ連合の方目掛け振り下ろす。
彼自体、斬撃を飛ばすなどという技術は持ち合わせていない。では何故? と疑問に思うだろう。だが、その答えはすぐに現れる。
「進め」
それは号令だった。敵を喰らい尽くせという命令を受け、第四軍団が有する戦力─牙獣兵団が進撃を開始する。
真っ先に動いたのは
「で、デケェ鹿が突っ込んでくるぞっ!?」
「総員迎撃! 奴等の突進を食い止めろぉ!!」
「い、いくぞ─ぎゃあああああ!?!?」
連合兵も黙って受け入れることはなく、手にした武器や竜印を用いて迎撃を行おうとするものの、
食い破られた戦線を更に押し広げようとするのは
「や、やめっ、たべないでででででぽぎょっ」
『ゴオォォォォォォン!!!』
複数の頭部を持つという、異形の巨大な狐が各々の口で連合兵の頭部を噛み砕き、鋭い爪で鎧ごと裁断していく。辛うじて顎の暴威から逃れられたとしても、天から舞い落ちる白の鱗粉は彼等の
───阿鼻叫喚。
そう称してしまえる程に、第四軍団が誇る牙獣兵団は圧倒的だった。
獣が持つ闘争本能を上手く活用し、殺戮をこなしていく。このままいけば数時間後には屍の山が築かれることになるだろう──あの男がいなければ。
「風輪始動──廻れ、『
突如として地表に顕現した風と雷が、まるで
如何に強力な獣であろうと天地自然の暴威から逃れることは叶わない。瞬く間に
だが凰翼の王たるガルドはそれで満足はしない。同胞を食い散らかした獣の主人たるアランを天空から見下ろし、大鷲が獲物を捕らえるが如く急降下しながら躍り掛かる。
人間として見れば大柄な恵体のガルド。それが風による超加速を伴った落下が引き起こす衝撃は、隕石の落下にも匹敵する程だった。
故にアランは回避という選択肢を捨て去る。あれを回避しようとしたところで、物質のような直線軌道による落下では無いのは明白だ。
回避先への方向転換なぞ、ガルドにとっては朝飯前と言えよう。
中途半端な回避は危険すぎる。その判断故の迎撃。全身に
「「オオオオォォォォォォォォッッッ!!!」」
火花が弾ける。
咆哮と殺意が入り乱れる。
地面を爆砕させながら突き進むガルドと、それに負けじと押さえ込もうとするアラン。反撃を叩き込むという最善は即座に潰えた。
実行しようにもガルドがその身に帯びる落下エネルギーが予想を遥かに上回るものであり、持ち堪えるのがアランにとっては限界だった。
故にこそ、次善の策が始動する。
『ここに我が竜銘を刻まん───』
愛欲と豊穣冠する女神が、中空に浮かびながら優しく微笑むのを2人は認識するのだった。
『大地を満たす黄金の豊穣、天空覆う繁栄が世界樹の名の下に謳歌する』
宙に浮かぶ複数の光球が、ラタを中心として回転を開始する。それはまるで太陽の周囲を回り続ける惑星のように。
『されど、黄金に勝る炎が地の底で鍛られる。天地を照らしてなお余る輝きに、私は心の底から魅了された』
ガルドはラタの
だからこそ、ガルドは攻撃対象を変更する。詠唱を中断させることを最重要目的とするが───
「……行かせんぞ、ガルド・フォーアンス……ッ」
ガルドの鎧を掴み、離さないと言わんばかりに握りしめるアラン。
『欲しい、欲しい。あれが欲しい。我が身体彩る絶世の美、手に入れずして何とする』
アランもガルドには劣るものの相応の巨躯であり、2人の体重を浮かび上がらせた上で中断させるのはガルドには不可能だった。
ならばとガルドは自らの口蓋を開き、周囲の大気を凝縮し始める。手も使えない、空も飛べないのなら──別の手段を以て止めれば良い。
『対価に求められるは理想たる我が身体。下賤なる欲望を前にして我が意はとうに決まっている。さあ、おいでなさい。穢らわしき鉄工の小人よ。神も巨人も悉く、情欲抱く我が
ラタの周囲が更に光り輝く様を見て、ガルドは即座に口蓋に凝縮した風のブレスを解き放つ。
超圧縮された風のブレスは正に、ラタの放っていたビームに酷似したものであり、それは詠唱を唱え続けるラタを射抜くには十分な代物だった。
「止めろッ、
だがアランの絶叫と、それに伴った
「ピュェェェェェエエエッ!!!」
ガルドが放った攻撃は、
ラタの
『四日四晩繋がり目合い溶け合って、炎の首飾りを我が輝きに加えなさい』
だが、ガルドは知らなかった。何故ならラタの
──生きてそれを伝えることが叶わなかったのだから。
「
天が暗くなり、ラタの周囲に浮かぶ光球が大地を照らす。そして──地表を照らす満天の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます