第44話 反撃開始
義経、アルグ、翡翠の3名が無尽烈竜トランギニョルとの戦闘を再開した頃、黎明解放戦線の指揮官拠点とも言うべき場所に、新たな騒動が起きていた。
「ま、マキナ!?何でここに…!」
突如として現れた、第六軍団総督のマキナに驚きを隠せないカレン。
それも当然だろう、彼は此度の鎮圧戦に参戦するよう命じられた訳では無い。では命令違反かと問われれば、それもまた否である。
10人いる総督で、命令違反をするのは第三軍団総督のマクギス・バルター程度のものだ。帝国の暗部──諜報組織に属するマキナが行うとは思えない。つまりこれは──
「陛下の命令ってことかい、マキナよ」
「その通りだ、トルキナード殿。これより陛下からの言伝を伝える」
カルグの予想通り、それはレムナール帝国皇帝、バロム・アンシャ・レムナール19世からの命令だった。そしてそれは同時に黎明解放戦線のメンバーからすれば、困惑の一言だった。
“何故皇帝が?”
そう思うのも当然だろう。何せカレンとカルグ率いる軍勢を派兵したのは、当の皇帝なのだから。
「では、清聴せよ───レイン・シャクンタラ・ヴィシュヴァー。汝が真に帝位を望み、我が地位を簒奪せんとするのなら、我は全霊を以てその大望を打ち砕き、我が治世は絶対であると天地の狭間に位置する全てに伝えよう」
「だが、その意志が己が欲では無く、真に民草が為に力を振るうと言うのなら──我は汝の罪を赦そう」
「己が血が為した悪事の悉くを、己が血で濯げ。レイン・シャクンタラ・ヴィシュヴァー」
「ヴィシュヴァー辺境伯を撃ち倒すことを命ずる」
マキナが手紙を読み終わった時には、周囲は沈黙に包まれていた。それも当然だろう、あろうことに皇帝はこの動乱の罪を不問とすると、堂々と宣言しているのだから。
無論その条件は、自らの父を始めとした一族の討伐だが…そんなものは些細なことに過ぎない。レインにとって、既に一族は捨てた身。今更何を躊躇う必要がある。
スパルタクスという、帝国が誇る総督を相手取っても尚圧倒出来る程の強力無比な戦力がある以上、レインに勝利の二文字以外はあり得ない。
「……皇帝は、狂ってるのか…」
「安心しろ、かの御仁は健在だ」
レインの呟きを聞き漏らさなかったマキナは淡々と返す。だがその表情はやれやれとした諦観のものだった。
「ねえマキナ、つまりあの時に命令された掃除って……」
そんな彼にカレンは自らの考えが正しいかどうかの質問を投げかける。それに返ったのは、無言の頷きだった。
「はー、陛下もやりやがるわー…」
「だな…まあ何かあるとは思っていたがよ…」
ヴィシュヴァー辺境伯に内通していた、帝国の裏切り者の排除。あんなおちゃらけた指示でありながら、その実内に潜む害悪を駆逐するものだったことに呆れ果てるカレンとカルグの総督達だった。
そして、マキナの持ってきた手紙により彼等がこの場で戦う理由は完全に消失したという事実と、一つの共通認識が生まれる。
「さて、俺達が戦う理由は無くなった訳だが…問題はトランギニョルだ」
「あ、ああ…今どうなっている?」
カルグの問いかけを受け、冷静さを取り戻したレインは近くにいた部下に確認する。
「現在、
「逆に言えば、まだ倒せてないってことよね…あーもう、
その報告を聞き、カレンは自らの頭を掻きむしる。スパルタクスとの戦闘の影響により、戦闘能力の根幹たる
「第五軍団総督、カルグ・トルキナード殿、第七軍団総督、カレン・ファルジナ殿………先の遺恨はお互い捨てよう。今は、トランギニョルを停止させねばならない。我々だけでは力が足りない、そしてそれは其方も同じとお見受けする。ここは、互いに協力し合おう」
レインはそう言いながら、2人に頭を下げる。
トランギニョルの脅威は誰もが知っている。文字通りの無尽蔵の大火力を、超高速で移動しながら行使する鋼の怪物。
そのような存在を撃ち倒す為には、互いに戦力が足りていない。故の協力要請だった。
「よし、やるならさっさとやろう」
「そうね、トランギニョル討伐作戦を決めるわ。取り敢えず、この場所借りるわよ。それと通信設備も、さっさと戦い止めないと」
「全周波数で通信を繋げる、直ぐに戦闘は停止する筈だ」
カレン、カルグ、レインは速やかに思考を切り替えていき、対軍作戦から対トランギニョル戦へ移行する。
それと同時にその場にいた黎明解放戦線のメンバーも慌ただしく行動を開始していき、各地に散らばり戦闘を続行していた部隊をかき集めていく。
「スパルタクス殿…少し頼みたいことがある」
「うむ、どうした教経殿」
周囲の喧騒に紛れ、教経は隣にいたスパルタクスに話しかける。
「外に居る俺の仲間を連れて、とらんぎにょるの侵攻を食い止めて欲しい。それと同時に、義経をここに連れて来てくれ」
「ふむ?」
教経からの頼みを聞き、スパルタクスは疑問を浮かべる。確かにこの場にいる最高戦力にも等しい
「その義経…とやらをここに呼ぶ理由は何かね?」
だからこその疑問だ、戦える者の数は多いほど良い。特に向こうで戦闘を繰り広げている者達は、自分達よりも経験を多く積み始めている。それを現場から引き剥がす理由をスパルタクスは問いかける。そして、教経はやれやれと首をすくめる。
「彼奴以上に、戦の天才を俺は知らん。彼奴の知恵と、ここの知識があれば……奴は必ず倒せる」
「…ならば仕方あるまい、彼等と共に
その言葉と共に、スパルタクスは外に出てシェーン達の首元を掴み、戦場に向かって跳躍する。その際3人の悲鳴が届くが、まあ問題無いだろうと教経は判断する。
「反撃開始と行くか」
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