第35話 闘神は立ち上がる
ガキィン、ガキィン─鋼と鋼がぶつかり合う音が戦場に響く。火花を散らし、ぶつかった際に生成される衝撃を周囲に走らせ、血と肉が花火のように飛び散っていく。
「我が一撃を受けよ、支配の轍共よ!!」
スパルタクスの短剣、その一閃が大上段から振り下ろされる。
つまるところ、この
そしてそれは、味方が増えれば増えるほどにその強度と脅威は増していく。部下の格が主人の強さとなり、主人の強さが部下をより高位へ導く。
「なんって傍迷惑な
スパルタクスの
「だがここで食い止めんのが俺たちの仕事ってなぁ!」
対してカルグは回避を即座に捨て、迎え撃つ方向でいく。盾を構え、音速を上回る速度で振り下ろされる短剣を真正面から受け止める。
「グオオォォォォッッッ!?!?」
その衝撃は凄まじく、カルグの足元の地面が隕石が直撃した際に作られるようなクレーターと化し、それですら足りず蜘蛛の巣上にひび割れていく。
「ハハハハハハハ!!! 良くぞ耐えた、だがこれで─」
「これで仕舞いっ!!!
スパルタクスが次なる一撃を放とうとする、その刹那。中空に浮かぶカレンは自身が纏う蒼炎を
それは彼女が戦い、殺した
迫る破壊の奔流、しかしスパルタクスはそれが何なのか分からない。自分の生まれた世界、そのはるか未来で作られた近代兵装の本質を理解出来ずに、今までの攻撃と同じく受け止めようと片手を伸ばす。だが。
「どーん」
カレンが指を鳴らす。それは放たれた一撃への命令だった。ミサイルは即座に命令に従い、
人体の柔らかい部位─眼球や鼓膜、内臓が破壊され、直後超圧縮した蒼炎が大気中の酸素を燃やし尽くしながら彼の身体を覆い尽くす。酸素の欠乏に加え、摂氏10000度の超高温がその生命に至るまで焼き尽くしていく。
彼女は預かり知らないが、見る者が見ればサーモバリック爆弾の原理にも等しい爆発だった。それを至近距離で受けたスパルタクスは無事では済まないだろう。
「……カレン、テメェ俺ごと殺すつもりかぁ!?!?」
「何言ってるのカルグ、アンタそう簡単に死ぬ奴じゃないでしょ」
「うるせえあの一撃は普通に痛えんだよ!!」
そしてスパルタクスの近くにいたカルグも当然、爆風をモロに喰らっているが当然のように軽傷で済んでいた。カレンはカルグの持つ防御力─|銅牆鉄壁。人界廻る日輪の轍、其は獄炎遮る神盾の護り
「後でご飯奢るから、許してよ。にしても殺しちゃったかぁ……仕方ない、うん仕方ない」
そう言って着地するカレン。その視界には黒焦げになったスパルタクスだったものが転がっていた。辛うじて四肢は繋がっているものの、皮膚の全てが焼け焦げており、内部までは見えないがこの様子では内側も似たような状態だろう。
再生治療を施しても無意味だろう。脳が焼けたのだ、そこまでいって生きている生命など存在しない。
「ま、これで反乱軍の連中の力も収まるだろ」
「だね、後は首謀者……カルグ!!!」
2人の意識が別の方を向いた、僅かな隙を突いて黒焦げとなったスパルタクスは真っ黒に焦げ、炭化した指でカレンとカルグの首を掴まんと立ち上がる。
それに反応出来たのは僥倖と言えるだろう。もし遅れていれば、確実に命は無かった。首という鍛えようの無い部位への一撃。頸椎をへし折るという攻撃手段は、正に命を奪うには簡単すぎるものだから。
「……なあカレン、あれ生きてるってマジか?」
「マジのマジ、おかしいでしょ……内臓焼けてるのよ?」
2人は共に冷や汗を流す。眼前にいる人間が、人間の道理を外れた化け物であると理解出来たから。
「ハハ……ハハハハハ……! ハハハハハハハ!!!! そうとも、私は同胞が! 共に自由なる黎明を求める者達が居る限り!!! 如何なる苦難が訪れようと、如何なる試練が待ち受けようと!! 無限に立ち上がるのだよ、絶望せよされど奮起せよ!!! 我が名はスパルタクス、例え天地そのものが阻もうと我が身は決して、屈服することは無いと識れッッッ!!!」
立ち上がったスパルタクスの肉体が再生していく。脳と内臓は一歩踏み出した時には完治していた。続く一歩を踏み締めた時には炭化していた皮膚が元の艶を取り戻していた。三歩目を踏み出した時には、爆炎を受ける前のスパルタクスの雄々しい威容を取り戻していた。
「さあ、続けよう支配の轍。お前達が地に伏すその瞬間まで、我が命の灯火は燃え続けるのだ」
2人は先の超回復が、莫大な量の
「……カルグ、耐えるわよ」
「応、つーかそれしか道はねぇわな」
よって、2人は作戦を変更する。
「「さあて、持久戦の始まりだ」」
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