第34話 戦乙女と太陽の盾
竜と契約した
生半可な鍛錬では習得することは叶わず肉体、もしくは精神が極限に至った者のみが扱うことを許される。だが竜印と
現実世界で分かりやすく例えれば、軽自動車とロケットの違いと言っていいだろう。
竜から流れる莫大な
それ故に
尤も
後天的に与えられた能力より、弛まぬ鍛錬の果てに積んだ能力の方が、経験という土台の違いを生む。それがこの世界の常識。如何に
「全員離れろぉ!!総督達が
「全員逃げろ!スパルタクスさんが
だが、その常識は儚くも崩れ去っていく。迸る
周囲にいる兵士たちの絶叫はほぼ同時に放たれた。彼等は知っている、
『至高なる世界樹の頂より、隻眼の最高神から勅命が下される。天に反旗を翻した乙女は、炎に包まれながら微睡みに包まれる』
カレンの告げる
『誰も訪れぬ炎の館。永劫終わらぬ眠りの刻が、乙女の魂を破壊する。されど、彼の者は訪れる』
吹き飛んだスパルタクスを尻目にカレンに更なる変化が現れる。手にした
『その壁踏み越えることは天地に挑む火蓋なり、眠る乙女は無音の叫びを上げる。されど彼の者、手にせし絶世剣、万物両断する鋼が大神の炎を斬り裂いていく』
大気がゆらめく。空気中に存在する水分が蒸発し乾燥していく。遂に耐えきれなくなった草木までもが燃える様は、正に地獄と称して良いだろう。その中で、
『ならばこそ、勇ましき者よ。その炎を越え我が手を取れ。遍く天地に、その勇気を叫ぶのだ─!!!』
蒼炎が迸る。翼を、鎧を、武器を形成させた戦乙女─カレン・ファルジナの
「
顕現するは蒼炎で作られた無数の武装。剣、槍、弓矢に大槌、更には
「行くわよ反乱軍、咲き乱れる蒼薔薇から逃れる術はないと知れ!!」
『偉大なる世界樹を巡る燦爛たる光、遍く生命を育むそれはされど遍く全てを焼き尽くす』
対するカルグの
『鞴を吹け、手綱を握れ、迫る大狼の大口から逃れる為に。巡る車輪の轍は焔となって人界に迫る。故に、我が大楯が全てを遮るのだ』
だがそれは決して発動が失敗したというわけでは無い。元来拡散されていく筈の
振るわれる短剣の衝突、肉どころか骨すら砕く程の勢いのそれがカルグの額に当たるものの、傷一つ付かない。それどころか反動を受けスパルタクスの態勢を崩してしまう程だった。
その隙をカルグは見逃さず、手に備え付けられた大楯で彼の胴体を殴り抜く。吹き飛ぶスパルタクスを飛翔しながら追撃するカレンを尻目に、カルグは詠唱を続けていく。
『世界を凍てつかせる大冬が来ようと、大狼が太陽を喰らおうと、我が身は婿の民住まう人界を護り抜かん!!』
肉体に、盾に変化は無い。だが、変化は既に完了した。太陽すら遮る究極の防壁と化した人間城塞─カルグ・トルキナードの
「
淡く輝く
迫り来る矢や石の飛来物─人体など容易く破壊し得る程の威力を伴ったそれを無防備に受けてなお無傷。帝国最硬の防御壁、生きた城塞が怒りと共に動き出す。
「テメェらが居ると、後ろの
「ハハハハハハハ!!!!!」
迫る蒼炎の薔薇園と人間城塞、2人の猛攻を受けてなお
盾の一撃を受け、肩部の肉片が弾け飛ぶ。
蒼炎の刃を受け、太腿の肉と骨が砕ける。
にも関わらず、スパルタクスは闘いを止めない。そして、滾る
『天に昇る黄金の街、轟く喝采が真紅の帝国に響き渡る』
迸る
総じて高まるのは力、力、力。火力速力膂力、何もかもが常人のそれを上回り続けていく。
『されど、栄華極める光の裏に犇く影。終わらぬ欲望を叶えるべく、その儚き生命を散らしていく』
放たれた無数の蒼炎の槍を、腕の一薙で撃ち払っていく。迫る巨大な盾の殴打すら、スパルタクスの意識を刈り取ることは叶わない。
『嘆きが、哀借が、憂戚が積み重なり怒りとなる。宵闇切り裂く我等の咆哮、我等の刃が支配の軛を撃ち破る』
数多の人の意識が、
想いが積み上がり、
『さあ我が同胞達よ、共に闇夜を蹴散らし黎明に凱歌を叫ぼうぞ!!!!』
「
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