第16話 ここに我が竜銘を刻まん
火花が奔る。
獣と獣の咆哮が重なり、殺意とそれを乗せる武装が音すら置き去りにして放たれ激突し、尚足りぬと両雄が更なる武威を解き放つ。
片や、重厚にして荘厳なる具足を纏う大武者─平教経。
片や、己が誇りたる獣の頭蓋を冠として戴く王─アルグ。
共に異界を端を発し、最強を自負する強者同士。その激突は文字通り、天地を破砕してなお余りある衝撃を伴った。
「ハッハァ!!」
最早地と一体化しているとも思わせるような超低空の疾走を以て駆け抜けるアルグを見て、教経は冷静に迎撃を実行する。地を這うなら此方は地を斬り裂けば良い、単純な答えを己の剛腕と振るう刀に流し込む
「化け物か」
そう呟くアルグだったが、教経も内心でアルグをそう断じた。
互いが武器を改めて構える。鈍色に輝く大太刀と、巨岩を削りあげ造られた大斧。超重量級の武装であるにも関わらず、両者まるで自分の手足のように扱う様は正に鬼神。僅かな静寂が走り、その刹那。
「「オオオオオオォォォォ!!!」」
迸る咆哮と無数に爆ぜる衝突音がバシラウス要塞前の平野部に轟いた。互いが
教経の放った首狙いの一閃、それをアルグは大斧の斧刃で易々と防ぐと同時に
「ぬぅん!!」
「グハァッ!?」
アルグの全霊を受けて尚教経は不動だった。肉体と具足、その両方に
「……カッカッカ、テメェ…中々やるな」
「それは此方の台詞、よもやアレを喰らって普通に立ち上がるとはな」
さも当然のように立ち上がるアルグを見て内心舌を巻く。常人なら即死して尚足りぬ一撃だったという確信はあったものの、
「「やはりここは楽しいな」」
故に、
一方その頃、義経もまた激しい戦闘を繰り広げていた。だがそれは、教経とアルグの戦闘とはまた異なるものだった。
「チィッ、何なのこれッ!?ボクの知らない妖術か…!?」
地面、空間問わず出現する氷の柱や針を回避と薄緑による斬撃で突破しながら、異様な妖術を扱う女─シェーンを見据えようとして、鋼と鋼がぶつかり合う衝撃音が鳴り響く。
「……素早いのですね、貴女」
「それこっちの台詞なんだけど、なぁ!」
「殺意がダダ漏れですよ──迸れ、
背中を振り向くこともせず、数百の棘が密集した氷の大壁が地面から現れて義経の奇襲を防ぎ切る。
「チッ」
その氷は分厚く、そして堅かった。並の具足なら容易く両断する薄緑でも傷付けることすら叶わなかったという事実が、義経に襲いかかる。だがそれは無力に苛まれるということでは無い。
「面倒だね、その氷」
「その言葉、そっくりお返ししますね。面倒です、その
互いに殺す手段は持ち得ているが、それを実行に移させない技術も互いに持ち合わせている。速度に長けているが故に、殺しが単調になる義経。殺す手段を多数持つが、技量故に速度では決して上回れないシェーン。故に──
「「ハァァァッ!!」」
大気気温を氷点下を超えてなお下がらせることにより生成した氷結空間と、それに伴う無数の氷を用いた攻撃手段を確立していくシェーンに対し、空間の生成が完了するまでの僅かな時間で殺すと決め突喊する義経。脚力を
「チィっ!!」
ガキィン、という鋼同士の衝突音が鳴り響きながら義経は舌打ちをする。その視線の先には、抜き放たれた細剣による防御が辛うじて間に合ったシェーンの姿があった。
「…貴女は、とても素直なのですね。殺意の先と、狙いの先が微塵も変わらない……お陰で間に合いました…」
「でも次はない」
改めて距離を取り、霞の構えを取ってシェーンに相対する義経。閉じられようとした牢獄は既に完成し、今一度開けて閉じるには相応の時間がかかる。それに加えて、先の彼女の取った防御法を義経は一度見ただけで理解した。次はない、それは彼女にとっての死刑宣告も同義だった。だが──。
「ええ、次はない……それは私も同じですね」
同時刻、幾重にも積み重ねられた破壊が齎した砕かれた地形、その中央でアルグはケタケタと嗤っていた。
「ああそうか、使うか」
何をだ──と、教経は問いかけることが出来なかった。教経の持つ戦士としての本能が、目の前にいる凶獣から放たれる気配を感じ取り、それ故に隙を晒すことを許す筈が無い。
「オレもお前も、こことは異なる地平から来たのだろう?なら、使える筈だ。
迸る、空間を歪ませるほどの
「貴女もまた、こことは異なる界からの来訪者。刃を抜き放ちなさい、それを以て…決着と成しましょう」
噴出する、大気すら凍てつかせるほどの
同時刻、同じ瞬間に、バシラウス要塞を粉砕して余りある力量が解放される。
「「ここに我が竜銘を刻まん」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます