第4話 村を救え
アジトから急いで外に出てすぐに、上空を見上げた。
「やっぱり村に向かってる!」
視認はできた。ただ、遠い。すでに村の手前まで飛行している。
ゴロツキのボスが言っていた通り、見た目は十中八九ドラゴンだった。
「どうするのです?普通に走っても間に合わないかもしれませんわ!」
「わかってる!あの魔法を使うわ!」
テオドールを追っていた時、馬車から飛び出したあの魔法。
あれなら三足飛びくらいで村まで行ける!
ただアレは着地時の緩衝コントロールがものすごく難しい。
実はまあまあ失敗する可能性もある。
「さあみんな!早く私に捕まって!」
「あの魔法ですか……。結構怖いんですよね、アレ……」
「つべこべ言わないの!早くしなさい!」
ルイがこの期に及んで怖気づいてるので、尻を叩いて無理やり私に捕まらせる。
「あの時の着地、結構危うかったですわよね……。成功率はどのくらいですの?」
「80%くらいよ!」
もう!早くしないと間に合わないでしょ!
セイラの手も無理やり引き、魔力を装填。
準備は完了した。
「じゃあ、行くわよ!失敗したら回復お願いね、セイラ!」
「ヒーラーは便利屋じゃありませんのよ!」
80%×3連続の実質成功率は51.2%。
別に問題ない、よね?
♯
「失敗した!」
ホップ、ステップ、ジャンプの要領で飛んだ。
ただ、ジャンプの時魔力量の調整を若干誤った。
少し躊躇したのかもしれない。村の入り口まで一気にいけたはずなのに、その手前、森の入り口付近までしか距離を稼げなかった。
「まずいですわね。もう村の上空にいますわ」
セイラが状況を説明してくれる。
もうはっきりとドラゴンの姿は見えている。
目的物でもあるのか。村の中央にあった噴水付近を目指すように、ドラゴンは翼を広げ急速に降下を開始していた。
「走りましょう!ティア様、私の背に乗ってください!」
村まではもう少し移動しなければ着かない。
ここまでくれば走るのが一番手っ取り早いので、運動が苦手な私に対してルイが最も効率的な選択肢を示してくれた。
「なっ……ちょっと、ルイ様!そんな甘やかしてはいけません……」
「いい提案ね、ルイ!」
考える間もなくルイに背負ってもらう私。
彼は何気に足が速い。そしてセイラもルイと同等の脚力を持っている。はず。
「では、行きましょう!」
ルイが私を背負いながらスタートの構えをとっている。
「はぁ。うらやましい……」
セイラがなんか言ったような気がしたけど、気のせいよね。
とにかく急ごう。
風を切り、かなりの速度で街道を駆け抜けたルイとセイラ。
息も切らさず、ものの数分で村の入り口まで辿り着くことができた。
まだ、ドラゴンが暴れて村を壊滅させた気配はない。
というより、不気味なほど静かだ。
中は……どうなっているのかしら……。
「入ろう」
状況を静観できるほどの余裕はない。
意を決し、さすがに少し警戒しながら村の中央付近を目指す私たち。
ほどなく歩き、噴水前で巨大なドラゴンの背を見た。
そして、割れた。真っ二つに。
「なっ!」
ドラゴンは頭から尻尾まで綺麗に中央で線を引いたように、半身に分かたれた。
ずり落ちた体が両サイドの建物の一部を損壊していく。
ドラゴンの背で見えなかった噴水前の様子が見えてくる。
誰か、いる。
「おや」
二人いた。男女のペア。
割れたドラゴンのことなど気にする様子もなく、男の方がこちらを見てつぶやいた。
中肉中背の金髪優男だ。とても整った顔立ちの美形で、雰囲気も柔らかい。服装の感じからおそらく貴族だと思われる。
「リュカ様、ちょうどよかったですね。待ち人ですよ」
男が隣で佇む女に向かって何か言っている。その子が手にしている細身の剣からは血が滴り落ちている。
リュカと呼ばれたこの女は特徴的だった。
ピンクがかったロングの金髪で右目に大きな黒い眼帯をしている。
背丈は金髪優男と同等程度。割と高めだ。
白い制服のような装い。
軽装だが勲章のような装飾がいくつか見受けられる。
騎士団の人間か?でなければ辻褄が合わない。
どう見てもドラゴンを斬ったのはこのリュカと呼ばれた女のほうだろう。
それも一刀両断。並みの使い手じゃない。
「ティア・ゼノビアだな」
見た目とは違い、低音の声色で私の素性を確認してくるリュカ。
隻眼の鋭い視線が私を捉えている。
「……あなただれよ」
「リュカ・デスペラード。『グランナイツ』で騎士団長をしている」
「グランナイツですって?」
あっさり素性を明かすリュカ。
しかも『グランナイツ』って言えば、ヴァナハイムの最強騎士団じゃない。
こんな細身でか弱そうな見た目の女子が騎士団長って……。
「ルイ」
「はい。彼女は史上最年少でかつ史上初めて女性でグランナイツの騎士団長に任命されたヴァナハイム最強の女剣士。『隻眼の剣聖』リュカ・デスペラードで間違いありません」
ルイはやっぱり知ってたか。
さすがヴァナハイム。年齢、性別とか強さの前では無意味なのね。
「10秒待ってやる。戦いの準備をしろ、ティア・ゼノビア」
「……はい?」
え?ちょっと待って。いきなり戦いの準備って……。
なんでよ。
「リュカ様。汚れた愛剣は私が拭いておきますので、これ使ってください」
割れたドラゴンの間から剣と木の棒を交換する様が見て取れる。
「私は
「いや、手加減してくださいね。仮にも友好国の王女様ですよ」
「これでやられる程度なら、たかが知れる。帝都の敷居は跨がせない」
「まぁ確かに。なんか私のことも忘れているようですし。その時はなんとかしましょう」
勝って当たり前かのように、ヴァナハイムの二人がやりとりしている。
男の方は会ったことあるような事を言っているが、面識あったかな?
ていうか私、舐められてる?
ちょっと腹立ってきたわね。ヴァナハイム最強だかなんだか知らないけど、そんな風に扱われて黙っているわけにはいかない。
「ティア様……」
「大丈夫。二人は下がって」
「ま、半分死ぬくらいならなんとかして差し上げますから。さあルイ様、一緒に後ろへ下がりましょう」
セイラ、ちょっとニヤついてない?
まぁ回復には期待してるわ。今回は無傷ってワケにもいかなそうだし。
「10秒だ。準備はいいか?“魔女”よ」
もう、なんなのアイツ!こっちの事情とか無視で、しかも初対面のくせに魔女って言った?
あったまきた!やってやろうじゃないの!
「とっととかかってきなさいよ!この切り裂き鶏ガラ女が!」
私の短気は治らない。
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