第3話 魔女、説教する

 ゴロツキ達が根城にしている洞窟の中は、それほど複雑な造りをしていなかった。


「なんだ貴様は……がはっ!」


「カチコミか!?……おっふ!」


 人数もさほど多くない。

 エンカウントしたゴロツキ達の数は20人ほど。


 次々悶絶させ、倒していく。


「あなたのその得意技。以前より凶悪になってますわね……」


 セイラが無造作に飛び回る私のいつものヤツ、魔力のつぶてを見てそうつぶやいた。


「そう?まぁ、調子は悪くないわね」


 今は半自動で勝手に死角からつぶてが敵を悶絶させるよう調整して展開している。


 なので魔法を使うという意識はあまり働いていない。


 ただ、歩いて奥を目指しているだけだった。


 その様子をセイラは凶悪だと表現した。

 ある程度魔法に精通した者ならそう感じること自体は普通な事だ。


 私がこの魔力のつぶてを操る魔法を好んで使うのには理由がある。

 使用効率がいいことと自身の調子を図る目的があるためだ。


 無意識的にある程度自由につぶてが勝手に動いているときは、調子がいい時だ。


 調子が悪い時は、意識を集中しなければこの扱い方はできない。


「どうやら、着いたようですね」


 前を歩いていたルイが洞窟内の開けた場所の入り口で立ち止まる。


 雰囲気的にボスのいる地点に着いたようだ。意外に近かった。


「あーまいった。降参だ、降参」


 中に入ると、無造作に置かれた調度品と金銀財宝の類が目に入る。


 2,3人のゴロツキが立派な椅子に腰かけるボスらしき男を守っている。


 ボスは煙草を咥え、両手を挙げて降参のポーズをしていた。


「あら、物分かりのいいボスさんですわね」


「こら、油断するな」


 セイラが敵意のないボスの様子に若干緩んでいたので、気を引き締めさせた。


 そう見せかけて隙をついて襲って来るのが、こういう輩の常套手段だ。


「おい!おめぇらも武器を置いて両手を挙げろ!」


 護衛のゴロツキに敵意がないことを示すよう指示を出すボス。


 しぶしぶ武器を床に置く護衛たち。


「アンタらのことは知ってるぜ。かの有名な伝説の冒険者、テオドール・スターボルトをしばき倒した奴らだろ?俺らごときが勝てるワケねぇわな」


 真意はわからないけど、諦めてるってのは本当っぽいわね。


 私のつぶてちゃんたちが様子を見ているのは、そういうことなんだろう。


 ただ、テオドールをしばき倒したっていうのは話に尾ひれが付きすぎてるわ。


 誰が噂してんだろ。

 

「わざわざ事情なんて聞かない。悪いことは言わないから、村からとっとと手を引きなさい」


 村の長たちと密約でも結んでるんでしょうけど、旅人をターゲットにして強奪したり攫ったりするのは感心しない。


 私一応王女だし、その辺りはきっちりしてもらわないと困る。


「……村長とは話たんだろ?あいつらなんて?」


 降参しているのに、ニヤニヤしながら揺さぶってくるボス。


 小賢しい。


「これは命令。ヴァナハイムは放置しているようだけど、ゼノビアは国境線の村がこんな状況になっていることを看過しない。私の父がヴァナハイムの王に提言すれば、村もアンタたちもすぐにこの地から強制排除よ」


 ゼノビアとヴァナハイムは友好国だ。

 つまらないいざこざで交易の妨げになるようなことはしない。


 国同士のという話になれば、おそらく悲惨な結果しか待ち受けていないだろう。


「……結局、そうやって力で抑え込むんだな。ゼノビアも」


 咥えた煙草の灰が地面に落ちる。


「手を引いたとして、村にも、そして俺らにも、この先なんかいい未来が待ってるのか?」


「……」


「俺らみたいな弱者にこの国で正しく生きる術なんてねぇ。どうやったって、行きつく先は同じ……」


「甘ったれたこと言ってんじゃないわよ!」


 ちょっと大きな声を出してしまう私。

 ぐだぐだ言ってんじゃないわよ。本当にめんどくさいヤツらね!


「そうやっていつも負け犬の考え方して、逃げてるだけでしょ」


「……なんだと」


 向き合いもせず、ただ楽な方に流れているだけ。このゴロツキも村の人たちも。

 

 ヴァナハイムは厳しい国だけど、諦めずに戦い続ける者を見捨てたりしない。


「悪いことは言わない。地道にここで経済活動をやりなさい。この地域はとても恵まれている」


「経済……活動?」


「ちゃんと商売でもしろってことですわ」


 セイラが補足してくれた。まぁ、そういうことね。


「よくこの辺りの地域性を理解してください。国境線の村、往来する人、景観、美味しい空気と水、特殊な環境下で育つ珍しい食べ物。普通にやれば、儲かる土地柄ですよ」


 ルイが詳しく説明するが、なにもそこまでヒントをやらなくてもいいよ。


 あとは自分たちで考えさせて。


「商売なんてとっくにやって……」


「地道にって言ってるでしょ。どうせ結果出なくてすぐ諦めたんでしょ。愚直に続けること。村の人たちとよく話し合って、どうすれば繁盛するか知恵を絞ることね」


「だが、うまくいかなかったら……。それに俺ら、無法者だし……」


「ぐだぐだ言ってないで今日からやりなさい!それとも、今ここで私たちにやられて、国の機関に引き渡されたいの?どっちがいいのよ!」


「は、はい!わかりましたぁ!」


 まったく。こっちは譲歩してあげてんだから、さっさと決断しなさいよ。


 まぁ、帝都がいつまで見過ごしてくれるかは正直わかんないんだけどね。

 

「さすがティア様!ゴロツキのボスを説き伏せ、改心させるとは――――」


 キィィィィィィン


 なに!?この超音波みたいな高周波の音!耳が、痛い!


「ああ……ついに、来て、しまった……ようだな……」


「え?どういう事!?」


 なにが来たって言うの?私は耳を押さえながら、ボスに問いただした。


「最近……この辺りで、目撃されていた……ドラ……ゴン」


 倒れこむボス。護衛はすでに目を回して卒倒している。


 ドラゴンって言った?だとすると……。


 通常のドラゴンじゃない。特殊なやつだ。


 この激しい耳鳴りのような超音波はおそらく移動によるもの。


 そして私は、かつて冒険者であった時、そういう波動をまき散らすドラゴンに出会ったことがある。



 ……非常に、良くない展開だ。



「ティア様!」


 ルイが苦悶と焦りの表情で私に声をかけてくる。


 セイラも少し不安げな顔をしながら、さっきの超音波で負ったダメージをちゃっかり自己回復をしている。


 ……何かが、起きようとしている。


「急いでここを出るわ!なんか嫌な予感がする!」


 


 


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