第2話 悪党は罰します
「て、てめぇ……俺たちに……こんなことして、タダで済むと……ぐぇ」
タダで済んでないヤツらが言うセリフじゃないね。
「アンタたち、どうせ村の人たちを脅していっぱい悪さしてんでしょ」
「ち、ちがう……俺たちはただ、この村を管理してやって……ぐふぉ」
私は、表に出てコテンパンにやっつけたゴロツキの片割れに率直な疑問を投げていた。
ただめんどくさいことに、質問するたびこの男はそれっぽい言い訳ばかりするので、魔力の
「御託は良いから、とっととアンタたちのアジトの場所、教えなさいよ」
別に確証があった訳ではなかったけど、こういうのは大体近隣の森とかに拠点があって、人相の悪いオジサンたちがたむろして悪だくみをしていると相場が決まっている。
この私に牙をむいた罪。その出所はきっちり潰してから旅は続けないとね。
「ティア様。彼らにも、なにか事情があるのやもしれません。少し聞いてあげてもよろしいのでは……」
「ゴロツキの事情なんて知らないわよ」
敵の言い分を聞いてやるほど、暇ではない。
「……まさに、“魔女”ですわね」
なによ。セイラだって先に顔面
「……もうそのへんで勘弁してやってくれんかのぉ」
いつしか集まってきていた野次馬たち。その中の一人、背の低い白髭を蓄えたご老人が私たちに声をかけてきた。
「……村長さん、ですか?」
「そうじゃ」
ルイの推測は当たっていたらしい。
「おい、村長!これは連帯責任だぞ……。俺らにこんなことして、ボスが黙ってると思うな……」
「もう、うるさいですわね」
ゴッという鈍い音とともに、セイラの鉄拳で完全に沈黙したゴロツキの片割れ。
ちょっと。まだアジトの場所聞いてないのに勝手に気絶させないでよ。結局二人とも黙らせちゃったのはセイラじゃん。
「適当に回復すれば済むことですわ。それに、村長さんにも事情は聞いておくべきではないかしら」
あ、そっか。彼女、一応凄腕のヒーラーだった。暴力的すぎて忘れてた。
「まぁ、聞かなくてもわかるんだけどね」
村長の怯えた表情と野次馬の「なんてことしてくれたんだ」っていう発言から、推測される答えは一つしかない。
この村は、支配されている。
♯
「思ってたのとちょっと違ったけど、まぁいいか」
ゴロツキのアジトを目指し、村の北側に茂る森の中を突き進む私たち一行。ゴロツキ2人は縄で縛って同行させている。
「村の方々は、彼らが悪い人達とわかっていながら、それでもうまく付き合っていたようですね」
縄を持って歩くルイが、村長から聞いた村の内情を要約してくれた。
帝都の方針で棄村が決定した村。村人は近隣の都市に移住し、故郷を捨てろと言ってきた。
ヴァナハイムという国は「強さ」こそが正義の超大国。力のない者、権力のない者、資力のない者、人望のない者。要するに弱き存在には権利が与えられず、強者の糧となって生き続けなければならない。そんな国家だ。
「都市で奴隷として扱われるよりも、悪と組んででも故郷で自由を得たかったのかしらね。ほんと、ヴァナハイムはヘスペリデウスと違って救いのない国ですわ」
セイラの言っていることは本当だ。ヘスペリデウス神国は神の名のもとに全員平等の精神を国是としている国。妄信的な部分は否めないけど、それでもヴァナハイムよりは圧倒的に弱者にやさしい国だ。
「おまえら他所モンが……。俺らは俺らで、うまくやってんだよ……」
ゴロツキの片割れがぼやく。
そうね。もうちょっと事情は考慮すべきだったのかもしれない。けど
「アンタたちは私たちを
そんなことは関係ない。あくまでこの天才魔術師であるティアもといエマ様を、あろうことか人身売買の商品にしようとした。その考えに及んだだけでも罪。連帯責任として、アジトに潜む悪党全員に罰を与えることにした。
「ちょっと相手が悪かったと思います。まぁ大人しく諦めたほうが身のためだって、あなた達のボスにもちゃんと言ってくださいね」
ルイがゴロツキに助言している。謝っても、軽くお灸だけは据えさせてもらいますからね。
「おまえら……ほんと、なにモンだよ……」
無駄話は終わり。森の奥地。開けた場所。岸壁に大きな穴が開いた、絵にかいたような大きな洞窟の入り口が見えてきた。見張りらしきガラの悪そうな男が数人たむろしている。
「お、おい!どうしたおめぇら……。ってか、何モンだテメェら!!」
特に隠れもせず、正面切って彼らの前に立ちはだかる私たち。縄でグルグルに縛り付けて捕虜のように扱っていたゴロツキ2人を見るなり、見張りの男の一人が大声を張り上げた。
正面突破。不意打ちを喰らわすまでもない!
「何者?そうね。ただの通りすがりの“魔女”よ」
悪党にとっての魔女であるというなら、それはそれで悪くない。
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