第34話 騎士の務め
「ただ、言い訳ではありませんが、この能力の開花は本当に偶然です。家系的に特異資質があるということはわかっていましたが、私の父も、そして祖父も、この能力には目覚めませんでした」
ルイの言っていることは本当だ。特異資質は血統による特殊能力でほかの誰にもマネできる代物ではない。
しかも、その能力が遺伝によって後世の人間が確実に扱えるかというと、そういうものでもない。可能性があるというだけで、確定的に開花させられるわけではないので、言っていることは理解できる。
「でも、偶然とはいえ、結果的には手に入れてしまった。そして、あなたは私のすべてを知ってしまった」
エマであるということだけではない。私の恥ずかしい秘密のあれやこれやも知ってしまっている。これはこれで、非常にまずいことだ。
「ティア様。ティア様はなぜ、わたしの命を救ってくれたのですか?」
ん?ていうか記憶共有したし、わかってるでしょ?愚問でしょ、それ。
「は?わたしのこと先に助けてくれたの、あなたじゃない」
「いえ、私はあなた様の騎士ですので、それは当然の務めなのです。ただ、あの時、合理的な判断を選択するティア様なら、役に立たない私を助ける道理はないのではと思いまして……」
「道理?ばっかじゃないの!」
ルイは、私の思考と同調したので、考え方の基本は共有したはずだ。言っていることは確かに合っている。だが、肝心の部分はわかっていない。ほんの少しの怒りとともに、私は彼に言ってやった!
「あなたがいないと困るからよ!」
「!!!」
ルイがなんか感動している。いや、ルイは本当に便利だから。戦闘はからきしだけど、他のことは結構役に立つし。いなくなられると困るのよ。
って、意味なんだけど。
「ティア様の騎士、ルイ・リチャードハートは一生あなたについていきますっ!!」
いや、一生とか。まぁいいか。なんだかんだ、そう言われると悪い気はしない。
「ただ、ティア様があんなスケコマシの冒険野郎がお好きだとは……ちょっと幻滅です」
「なっ!うるっさいわね!それ、絶対言わないでよ!言ったら、殺すから!!」
「はいはい。わかりましたよ。なにも言いませんよ。王には」
「えっ?それって……」
「王に報告すれば、この関係も終わります。それは私の心が望む結果ではありません。それに、ティア様がこの世界を恨み、反旗を翻すつもりなど毛頭ないこともわかっています。探求こそが、ティア様の生きる道ですよね」
そうね。そのとおりなのよね。やっぱり、あの『ブレインリンク』はすべての思考を共有していたようだ。肝心な部分も、わかっているのだ。
ルイはわたしを試したのかもしれない。王に報告するか否かを。いくら思考がわかるとはいえ、言葉で話さなければ、気持ちというものは伝わらない。大事だという気持ちを私の口から直接聞きたかったのかもしれない。
「それはそうと、アリア様は大丈夫でしょうか……」
ルイが心配そうにアリアのほうを見た。
「アリアはどこかの段階で意識を取り戻してたと思うし、たぶん、皇帝が亡くなったことも知っているんじゃないかな。心が持てばいいけど」
戦闘中ずっと気絶していたとは考えにくい。彼女の外傷はそこまで深くなかった。
「これから、大変でしょうね……」
ルイがさらに心配する。シルメリアはこれから皇位継承争いが激化するだろう。当然、アリアもその潮流に巻き込まれる。辺境都市ミルトン奪還の件もある。今は夏休みだからいいが、もしかするとアリアはこのまま学園をフェードアウトするかもしれない。ただ、
「私たちがいま心配してもなにもならない。それに、アリアは小さい時から大人の世界を見てきた子。きっと強くなって、また元気な姿を見せてくれると思うわ」
希望的な観測だ。でも、彼女は強い。こんなことでくじけはしない。それはずっと彼女を見てきた私だからこそわかる。また、なんてことのない皮肉を言い合う日々が来ることを信じている。
「ティア!ルイ!帰還だ!」
ティベリウスの聴取が終わったようだ。私たちも満身創痍。とても疲れた。
思いはそれぞれ。状況はこれまでと激変した。考えなければならないこと、伝えなければいけないことが山のようにある。
でも、いまはとりあえず一呼吸だ。一度休みたい。
「ルイ、帰りましょう」
「はい、ティア様」
そんなたわいないやり取りを後に、私たち一行はゼノビアへの帰還を果たしたのだった。
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