第33話 発覚
5大国の混成部隊が援軍でやってきた頃には、テオドールの一派はもういなかった。どうやったかはわからないが、気づいたころには、すでにその姿はなかった。
ティベリウスがシルメリアの部隊長と打ち合わせをしている。どうやら各地の暴動はすべて鎮圧されたらしい。これだけ早く鎮圧できるのは予想外だった。ヴァナハイムの統率力のおかげか。
フェリスはアリアのそばでずっと心配している。アリアはまだ気を失っているのか、横になったままだ。とっくに回復は終わっているし、体は問題ないはずだ。精神的なもので立ち上がれないのかもしれない。
「はぁもう。つかれましたわ」
ヘトヘトな様子でその場に座り込むセイラ。さすがに体力も魔力ももう残っていないらしい。ずいぶん無理をさせてしまった。ほんと、ごめん!
「ありがとうセイラ。あなたがいなかったら、全員ここにはいなかったと思う」
「まぁ、当然ですわね」
自信満々のセイラ。まだ元気が残っているらしい。この様子なら、彼女は大丈夫そうだ。
「あ、従者が迎えに来たようですから、わたくし、そろそろお暇させていただきますわね」
「あのこと、話さなくていいの?」
私がエマであることを、セイラはほぼ確信を持っている。色々世話になったし、彼女の疑問くらいは素直に答える気持ちになっていた。
「……お姉さま。セレスお姉さまは、わたくしのこと、なにかお話されていました?」
エマ時代にともに冒険したときのことを聞いているのかな。ちょっと思い出してみる。
ああ、そういえば、あんなこと言ってたな。
「すっごい生意気なの!言葉遣いも気持ち悪いし!すぐ怒るし!でも……」
今思い出すと、その時の笑顔はとてもまぶしかった気がする。
「帰ったらとっておきの冒険譚、聞かせてあげるの!で、今度会える時は大きくなってるだろうから、次は一緒に冒険しようと思っててね!」
セイラのこと、絶対愛してたと思うよ!
「……」
言葉にならないセイラ。静かに涙を流し佇んでいる。それを見てると私までちょっと泣けてくる。
「ありがとう、ティア。それを聞けただけで十分ですわ」
涙をぬぐいながらセイラは満足した表情になった。
「もういいの?」
「ええ。あとは直接本人に聞きます。お姉さまは必ず生きています。わたくしは絶対に見つけてみせます!」
力強くそう言い残し、迎えに来た従者とともにセイラはその場を去っていった。
でもあの子、口軽そうだから。大丈夫かな。余計な事、大聖女様とかに言わないでよ……。
「任務は失敗に終わりましたね……」
ルイがテオドール達が去っていった方角を見つめながら、つぶやいた。
テオドールの捕獲任務は失敗に終わった。それにシルメリアの秘宝も彼らの手に渡ってしまったし、なによりシルメリアは皇帝が不在となってしまった。これから、この国の内部は混乱を極めることになる。
「そうね……。ああ、そういえば、ルイ」
私はそうつぶやくと同時に、軽く魔力を乗せた拳でルイの横っ腹に一発右ストレートを叩き込んだ。
「はぁうぅ!」
情けない声で鳴くルイ。あ、軽くのつもりだったのに、すごい力入っちゃった。
「王……お父様にはどう報告するつもりかしら、ルイ・リチャードハート」
呻くルイを後目に、私はルイを問い詰める。
「な、なんのこと、でしょうか?」
「とぼけても無駄よ。あの能力、『ブレインリンク』を使って私を調べるために、あなたは私の騎士になった。ちがう?」
『ブレインリンク』最大のデメリットは、契約者(この場合はティア)のあらゆる記憶を共有してしまうことだ。つまり、ルイはティアがエマ・ヴェロニカの転生者であるという決定的証拠となってしまったのだ。
そして、その事実を父に知られると、私はたぶん、牢屋に入れられることになると思う。
敵の首謀者がテオドールである以上、かつての仲間であったエマ・ヴェロニカを放っておくわけにはいかない。今後の交渉の材料に使われるか、もしくは断罪される運命だって考えられる。
「……そうですね、申し訳ございません。ティア様」
ルイが苦虫を噛みつぶした表情で謝ってくる。
やっぱり、そうだったんだね。
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