第15話 職員諮問会議

「ティア・ゼノビア。ちょっと来なさい」


 終礼が終わり、いつものように図書館に寄って帰ろうとしていたその時、私は急に担任の教師から呼び止められた。


 激動の新入生歓迎交流会から数日が過ぎ、私は日常に戻っていた。


 新入生による運動場の優先利用に関する約束は守られた。交流会終了後間もなくして全校生徒に通達が行き渡り、反故にされることはなかった。この辺りは筋を通すらしい。


 ただ、いくら優先利用できるといっても、あれだけ実力で劣る下級生が上級生の圧力を覆せるはずもなく、運動場の利用状況は以前と大して変わらなかった。


 まあ、私が外で遊べば権利の主張は容易なんだけどね。あいにく外で子供と一緒に戯れるつもりはない。


「これを」


 高価な紙質の封筒を担任から手渡される。中身は薄くて軽い。紙切れ1枚ってところかな。


「3日後開催される、職員諮問会議の招集通知だ。不参加は許されない」


 鋭い目つきと厳しい口調で、担任は私に言った。


「なぜ呼ばれているかは、わかるな?」


 職員諮問会議。通常行われるのは、教職員が集まり、教育活動や学校運営に関する様々な事項を話し合う場で、生徒を呼び出すことは基本的にはない。


 ただ、問題行動の多い生徒がいた場合は例外。生活指導や今後の進路に関する相談とは名ばかりに、教職員の中でも地位の高い者を集めて、問い詰める場に様変わりする。


 目的は矯正か排除だ。


「わかりません」


 私はきっぱりとそう言い切った。


 いや、わかっていますよ。はい。


「規律違反。以上だ」


 ちなみに担任は数いる教師の中でも特に私を嫌っている。ぼーっとしているだけで怒鳴られたり、受け持ちの授業で毎回質問の集中砲火を浴びせてきたり。度々嫌がらせのような行動をとってくる。


 アリアに聞くと、彼も王族を毛嫌いしているとのことらしい。この間の交流会で私が勝ったことも気にくわなかったようで、そのあと度々「父親の力だろう。七光りが」とか言ってくる。子供か。


 教室を出ると、一緒にいたユウナとアリアが近づいてきた。


「なんか先生、怖そうな顔してたけど、大丈夫だった?」


 ユウナがいまにも泣き出しそうな表情で心配してくれる。この子は本当にいい子だ。


「職員諮問会議の招集状ね。ご愁傷様」


 私の手に携えられた封筒を指さしながら、相変わらずの調子でアリアが言った。


 交流会のあと、ユウナとアリア、それと例の取巻き3人衆は保健室に連れていかれ治療を受けた。


 プランタの保健室には回復魔法を扱える便利な先生がいるため、彼女たちのケガ程度であれば特に問題なく治してくれた。


 多少手荒い授業でも、この仕組みがあるのであれば納得はいく。


 調子に乗っていた上級生10名+1名は、全員病院送りとなっていた(してやった)。保健室で済む程度のダメージにしたつもりもなかったので。


「なんで私だけ……。アリアだって1人やってたじゃない」


 確かに全員病院に送るほどのダメージを負わせたのは私かもしれないけど、最初に手を出したのはアリアだし、一緒に呼び出されてもおかしくないはずなのに。彼女は呼び出されていないらしい。


「ま、日ごろの行いってやつ?」


 絶対良くないよね。って思ったけど、この子は昔から他国を渡り歩いて交渉なんかも行っていたから、案外この学校の先生にも顔が効いているのかもしれない。


 私も本ばかり読んでないで、少しは政治に関わっておけばよかったなと、ちょっとだけ後悔した。


「職員諮問会議ってなにするの?」


 ユウナがアリアに聞いた。


 ちなみにこの2人と取り巻き3人衆は保健室で意気投合したらしく、思いのほか仲良くなっていた。ユウナのコミュニケーション能力は才能だと思う。


「普段なら、そう大したことも話し合わないらしいんだけどね。さすがに今回は11人も病院送りにして呼び出されているから、タダじゃすまないと思うわ」


 ええ。知っていますとも。


「……いわゆる“魔女裁判”ってやつよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る