第14話 怒りの大魔法

 リーダー格がこちらを見て、これまでにないほどのニヤつきを見せている。


「きみは明らかに調子に乗りすぎた。覚悟してもらおう」


 構えるリーダー格。ほかの手の空いている上級生やダメージを受けた上級生も体制を立て直し、私を標的にしている。


 ただ、彼らもわかっているようだ。わたしが、相当な実力者であるということを。


 警戒を怠らない今の私に対して、不用意に襲いかかってきたりはしない。


「傍を離れないでね、ユウナ」


 ただ、ユウナを守りながらというのは骨が折れる。かなり厳しい戦いになるかもしれない。


 ……って、あれ?


「……」


「……ユウナ?」


 返事がない。警戒を解けないので、視線を送れない。ただ、私の腕をつかんで震えていたはずのユウナの手の感触が徐々に緩んでいくのがわかる。そして


「……ごめんね……ティアちゃん。足手まとい……で」


 振り絞るようにそうつぶやき、ユウナがその場に倒れこんだ。倒れこむとき、こめかみから血が流れている様子が視界に入った。


 この場にいるやつらじゃない。教師や新入生でもない。視界の範囲だけに警戒していて気づかなかった。


 敵は、結界の外にもいる。


 油断した。距離があって狙いがはずれたのか、あえてユウナを狙ったのかはわからない。


 わからないが、さすがにここまでされて、黙っているわけにはいかない。正体がばれてしまうリスクもあったので、あまり大掛かりなことはしたくと思っていたが、仕方がない。


 完全に私、キレました。


「いくぞ!一斉攻撃だ!」


 友人をやられ、油断ができたと勘違いしたのだろう。リーダー格の号令とともに、上級生10人が一斉に攻撃を仕掛けてくる。だが、それは悪手だった。


 すでに私の激情は魔力の奔流へと変わっている。



 格の違いを、思い知るがいい!



むしばめ。精神世界を崩落する死の結界・アストラルブレイカーフィールド」


 見ている人間には、何が起こったのかわからなかっただろう。私は誰にも聞こえないよう、つぶやくようにSSクラスの大魔法を解き放っていた。


 襲ってきた10名の上級生は、私に到達することなく、全員攻撃途中で泡を吹いてバタバタと倒れこんだ。


 そして、全員もれなく失禁している。


 また同時に、ユウナのこめかみの傷の位置から、結界外から襲撃してきたであろう愚か者にも極小の魔力のつぶてを超速で飛ばし、戦闘不能にしたのを確認した。


 あの程度の結界、貫くのは造作もない。


 小細工は私、大嫌いなの。なので、外から撃ってきたならず者には病院送り確実の一撃をお見舞いしてやった。1週間以上の入院は確定的。ご愁傷様。


「ねぇ……これ、どういうこと?」


 この場を仕切っていた女性教師が驚嘆する。ほかの教師たちも、理解を超えた出来事に混乱していた。


 ただ、なにか強力な魔法が使われた事実は理解しているようで、その使用者が私であることだけは確信しているようだった。


 アストラルブレイカーフィールド。5大国間で使用を制限しているSSクラスの結界魔法だ。私は自分とユウナの周囲一帯にコッソリと見えないように展開していた。


 本来この魔法結界は、触れたものの精神を蝕み死に至らしめる大変危険な魔法だ。


 ただ、私クラスの天才魔術師が扱えば、威力を調整することも隠して使用することも思いのままなので、死なない程度の出力で襲って来る敵を全員効率よく気絶させるために使ってやった。


 失禁した上級生の記録も魔法でバッチリとったので、これで脅せばしばらく大人しくしてくれるだろう。


「……ねぇ先生、もうとっくに10分、過ぎてますよね」


 私は女性教師に近づき、脅すような冷たい言葉と視線を投げつけた。当然、私はまだダサい帽子をかぶっている。


「……あなた、いったい何者なの?」


 訝しむ女性教師。


「なんか上級生のみんな、勝手にバタバタ倒れて。熱中症ですかね」


 とぼける私。質問に答えるつもりはない。


「そんなわけないじゃない!この件は上に報告させてもらいますからね!」


「運動場優先利用の約束は必ず守ってくださいね。せんせっ!」

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