第12話 仕組まれた遊び

「新入生のみなさんはこっちに集まってくださーい!」


 運動場につくと、若い女性教師が誘導を行っている。そこにはすでに多くの新入生たちがアカデミー指定の運動着姿で集まっていた。


「はい、じゃあみんな順番にこの帽子を被ってくださいねー」


 真っ白なだけでファッション性のカケラもない帽子を渡され、被るよう指示される。


 いったい何をやるつもりなのだろう。


 交流会開始5分前。2クラス総勢60名の新入生一同と相対する上級生10名。引率には3名の教師がいる。


 上級生は2,3年生しかいないらしく、参加は今ここにいる人数だけらしい。歓迎会というにはあまりにも歓迎する気持ちを感じない。


「えー、それでは!これからルールを説明します!」


 さきほどの若い女性教師がハキハキとした声で説明を始める。


「いま新入生のみなさんには、この白い帽子を被ってもらいました。これから、上級生がその帽子を取りに追いかけてきます。みなさんは、10分間、上級生からその帽子を取られないように、逃げてください」


 交流歓迎会っていうのは遊びの延長で仲良くなりましょうってことかな?それならこの遊びじゃない方がいい気もするけど。


「ちなみに、この運動場を出ようとしてはいけませんよー。というよりも、ちょっとした結界を張っているので、そもそも出られませんけどね」


 結界って……。


 この交流会が遊びではないことがよくわかる。


「結界は触るとやけどしますので、注意してくださいね。もし新入生チームが1人でも帽子を奪われることなく10分間逃げ切れた時は、休憩時における運動場の優先利用権が与えられることになっています!」


 運動場の優先利用権なんてどうでもいいことで頑張る理由もない。適当にさっさと捕まろう。


「ちなみに、過去。当アカデミーでは伝統的にこの行事を実施していますが、帽子を奪われずに生き残れた新入生は1人としていません。もし最後まで帽子を取られずにいられた者が現れるとしたら……。それはこのアカデミーの伝説となることでしょう!評価には関係ありませんけどね」


 なるほど。それでアリアは意気込んでいたのか。そういうの好きそうだもんね、あの皇女。


「逆に言えば、この学園で2,3年学ぶとどのような成長を遂げられるかがわかるということでもあります。あなたたち新入生と、ここにいる上級生との間には天地ほどの広い差があることを実感するでしょう。それもまた学び。是非その差をしっかり認識し、今後の励みにしてください。それでは始めたいと思います。準備はいいですか?」


 新入生たちの間に軽い動揺が生まれる。準備が整っているはずもないのに、集まっていきなり交流会が始まろうとしている。


 まあ、私には関係ないんだけど。


「それでは、始め!」


 女性教師の号令と同時に一斉に散り始める新入生一同。唐突に始まった割にはうまくバラけている。一応はプランタの才能溢れる子供たちと言ったところかな。


 上級生10人はそれぞれ別々にゆっくりと動き出した。特に連動して帽子を奪おうという意識は感じない。最初は肩慣らしということか。


「ティアちゃん!わたし、運動場でいっぱい遊びたいから!絶対逃げ切ろうね!」


 私の傍を離れず、ユウナが難題を吹っ掛けてくる。正直、運動場の使用権も学園の伝説も全く興味がない。とっとと帽子捕られてリタイヤしたいんだけど。


「あー、ユウナ。わたし運動苦手だから。たぶん、すぐ捕られちゃうよ」


「えー。頑張ろうよ!」


 残念そうにユウナが言う。ちなみに運動が得意でないのは本当だ。走るのとかしんどい。


 特に逃げるつもりもなかったけど、適当に距離を取りながら、全体を俯瞰してみる。いまのところ、殺伐とした感じはない。笑顔でみな楽しそうに走り回っている。


 すでに帽子を取られている新入生も……あれ、結構いるね。


 まだ開始して2分ほどしか経っていないけど、すでに半数近くの新入生が帽子を捕られているように見える。


 一見ランダムに動き始めたようだけど、よく観察していると、とても効率的に10人が歩調などを合わせていることがなんとなくわかる。


 運動量自体は多くない。あれは思考を読んで動いている。しかも一見バラバラなようで、しっかり連携がとれている。相当準備してきている。


 この流れこの状況であれば、確かに入学したばかりの1年生ではとてもかわしきれないだろう。


「なんかわたしたちのところ、誰も来ないね」


 ユウナが小声でつぶやく。ちょっと暇そうな面持ちだ。


 そう、俯瞰して見れているということは、自身は安全圏にいるということになる。


 いや、特に考えて距離をとったわけではないけど、なぜかこちらには上級生が1人として帽子を奪いに来てはいなかったのだ。


「……おかしいな。こっちは隙だらけのはずなんだけど」


 距離があるとはいってもそんなに遠い位置にはいない。連携すれば、私たちの帽子を奪うことなどたやすいはず。


 いやこれは、もしかすると……。


 開始から5分ほどが経過した。帽子をとられ、隅で座っている新入生の数が54人になっていた。


 残りは私とユウナを含め6人。上級生10人は汗もかかず、息も切らさず、体力を残したまま一度同じ場所に集まり、作戦の確認を行っているように見えた。


 ああ。やっぱり。そういう事なんだね。

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