第10話 制裁の魔法

「遅いぞ!5分前行動が基本だ!自重しろ!」


 間に合ったが、ギリギリだったので怒られた。この授業の男性教師は規律にうるさいらしい。


「ごめんなさい。先生……」


「ま、まぁ、次から気をつけなさい」


 ユウナが目を潤ませながら先生の目を見つめて謝ると、教師の語気は和らいだ。


 この子、自分がかわいいということに気づいているな。なかなか強かな少女だ。


「では、今日の授業は火属性魔法の基本、ファイヤーボールを扱う授業を行う」


 基本動作や思考方法、魔力解放の仕方などの基礎を30分程度の時間で教えられ、さっそく実践練習を行うこととなった。


 私はあくびが出そうになるのを堪えながら、取り立てて聞く必要もない授業を漫然と受けていた。


 ちなみにこの学園では魔法を教える授業が普通にある。魔法は持って生まれた資質がかなり重要だけど、理論や使い方を学べば誰でもある程度は使えるようになる。


「ねぇ、ティアちゃん。わたし、全然わかんなかったんだけど」


 コソコソと話しかけてくるユウナ。まぁ普通、いくら優秀な子供たちを集めているとはいえ、入学してたった数回の授業で魔法を理解しろというのも無理な話だし、ファイヤーボールをいきなり放てる奴なんていないと思う。


 これから練習して、使えるようになるのに半年はかかるだろう。そのくらい、魔法というのは簡単に扱える代物ではない。


「大丈夫よ、ユウナ。多分ほとんどみんなわかってないと思うから」


「ティアちゃんは主席だから余裕なんだよね!今度教えてよ!」


 まあ余裕だけど、教えてすぐにできるものでもない。ていうかこの子、親近感ほんとすごいな。


「はいはい、わかったわよ。今度じっくり教えてあげる……」


 言いかけたところで、私は自分の頭をほんの少しだけ後ろにずらし、突然どこかから放たれていた火の玉を回避した。


「あ、すんませーーん。おれ、なんかできちゃったみたいですわぁ」


 距離にして5メートルほどのところ。とても扱えるはずなどないと思っていた子供の一人に、魔法を使用した痕跡を確認した。


 発生元に目をやると、悪びれた素振りでニヤつき、こちらに謝罪している男子がいる。


 なんか見たことのある顔だ。


 ああ、そうだ思い出した。あいつは入学式の時にアリアの近くで気持ち悪い笑みを浮かべていた取り巻きの一人だ。


 よく見ると、魔法を放ったやつの左右に取り巻きの残りの二人もいる。そいつらもニヤついている。


 どうやら彼ら3人は、いずれも私のクラスメートだったらしい。


 魔法が使えることに驚くよりも、明らかに私を狙って放ったであろうことに、また怒りが沸々と湧き上がる感覚を覚える。


 先生は見ていない。いや、わかってはいるはずだ。仮にもプランタの魔法教師。使った魔法の痕跡くらいは確認できているはず。


 なるほど。教師連中の私に対する感情は事故でも起きてこの学園から退場すればいいとでも思っているのだろう。


 ふふ。そういうことなら、望むところね!


「ティアちゃん!大丈夫?」


 心配してくれるユウナ。いまの火球は、仮に私に当たっていれば、ユウナにも飛び火した可能性が高いとても危険な行為だ。当たるはずないけど。


 とりあえず、あの3人には格の違いを脳に叩き込まなければいけない。


「先生、次、わたしファイヤーボールいきまーす」


 右手をかかげ、構える私。別に構えなくても打てるけど、演出も大事よね。


「おいおい、君の順番はまだ……」


「ファイヤー……」


「え?」


 私がかざした右手の前に、硬球サイズの火球がに現れる。そして


「ボーーール!!!」


 声高らかにそう叫ぶと、ありえない速さで魔力の塊が3人の取り巻き達のみぞおちに向かって勢いよく飛びこんでいった!


「がっ!」「ぐぇ」「ごぼぉぉ!」


 耳障りな汚い濁音とともに、取り巻きの3人は同時に悶絶し、ダウンした。


 クリーンヒットだった。


 ただ、彼らは火球が当たったはずなのに、燃えてはいない。なぜか?炎は私の前だけに発生するよう調整し、放っていたからだ。


 ファイヤーボールに見せかけた、魔力のつぶてをちょっと飛ばしただけの基本技。


 汎用性があり魔術師ならだれでも扱える簡単な技だけど、ファイヤーボールよりはちょっと構成が難しい。


 保健室送りにするぐらいなら、こんなものでいいだろうと思って手加減して使った。


 わざわざ燃やさなくてもいいでしょ。消すのも面倒だし。


「ティア・ゼノビア!また貴様か!あとで職員室に来るように!!」


 男性教師が倒れた3人の状態を確認しながら、私に対して怒鳴ってきた。あいつらが先に仕掛けてきたんじゃない。まあいいけど。


 その後。


 数週間ぶり2度目の職員室にお呼ばれした私。


 とても入学したての今年7歳になる女の子がやることではないな、という自覚だけは確かにあった。

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