第5話 アカデミー
私、ティア・ゼノビアはもうすぐ6歳になる。
あの決闘の日から1年ほどの月日が流れた。ある程度のケガを負った私の騎士ルイ・リチャードハートも傷はすっかり癒え、騎士としての任務に従事する忙しい毎日を送っている。
ただあの後、当然ながら王家内外ではひと悶着あり、シルメリアの王族からは注意を受けた。
政治的な思惑もあるため、あまりこちらの正当性ばかり主張しても問題が大きくなる可能性があったため、黙ってシルメリアの言い分を受け入れた。
納得はしてなかったが、面倒ごとが増えるのも考えもの(だったら決闘とかするな、とか言わないでね)だったしね。しばらくは大人しくしていることにした。
そんなこんなあり、私はまた、日課であったゼノビアの古代図書館で書物を読み漁る日々が続いていた。
いつも通りの日常だ。
余りある知識欲も前世から引き継いでいたようで、この図書館は私にとって天国のような居場所になっていた。
ただ、ここで過ごす日々は思いのほか長すぎたようで、蔵書されていた大抵の書物は読みつくし、そこに書かれている概ね全ての内容は理解してしまっていた。
もう読むものがないから他の図書館に行こう。普通の人間ならそう思うのだろう。
しかし、私は違った。
この古代図書館には地下が存在し、その広大な地下空間には地上のそれとはまったく異なる蔵書があることを私は知っていたから。
かつてエマ・ヴェロニカとして活動していた時からずっと行きたいと願っていた場所だったのだ。
ただ、そこへの入室には、ゼノビア王の認可が必要で、過去、あらゆる手段を使って認可を申請したが、却下されていた。
得体のしれない魔術師に開放されるほど、簡単に入れる場所ではなかったのだ。
でも、今の私は素性のわからない魔術師ではない。ゼノビア王家の王女だ。6歳とは言え、認可をもらえる可能性は十分にある。
ということで、古代図書館地下1階への入室を頼むため、私はいま、実は生まれてから初めて会うゼノビア王の前で、地下1階への入室をお願いしているところだった。
「……条件がある」
父である王の謁見室内。彼は私に厳しい目を向けながら、そう言い放った。
正直あまり期待していなかったが、条件を提示してきていることから、これはもしかすると可能性があるかもしれないと思った。
「我が娘ティアよ。確か、おまえはこれからアカデミーへの入学を控えていたな」
意外なことに、父は私のことを多少は知っていたようで、一応、父親だという自覚はあることがわかった。
「プランタジネット共・王立アカデミーへの主席合格。それが条件だ」
父の声は硬く、それが示す条件の重さを感じた。
ただ、私は知っている。
プランタジネット共・王立アカデミー。
ゼノビア城下の広大で雄大な土地にそびえ立つ、7歳から16歳までの子供を教育する機関の名前だ。
各国出資の学校で、身分に関係なく能力のある子供達が集められ鍛え上げられる、世界最高の教育機関。その入試難度は特Sクラスで、並の知識では入学できない。
しかし、ティアもといエマにとってはどうということはない条件だった。
「承知しました、お父様」
私は内心、ガッツポーズをした。正直、勝ち確だ。いまさらアカデミーへの首席合格など造作もない。圧倒的知識で攻略してやろう。
ただ、一応受験だ。試験まで概ね残り1ヶ月ある。念のため、対策はしておく必要はあるだろう。
私が部屋を出ると、そこには私の騎士であり、教育係でもあるルイが待っていた。
「地下1階への入室許可、いかがでした?」
「プランタへの首席合格。それが条件みたいよ」
条件を言った私に、ルイは少し驚いた顔をしていたが、すぐににっこりと笑って頷いた。
「あまり時間もありませんが、ティア様なら朝飯前ですね!」
「念には念を入れるわ。ルイ。あなた、確かプランタの卒業生よね?力貸しなさいよ」
実はこのルイという私の騎士は、戦闘能力はゼロに等しかったが、頭は決して悪くなかった。
と言うのも、これから目指すプランタで、ルイの成績は常に上位トップクラスだったらしい。母から聞いた話しなので、おそらく真実なのだろう。
あまり頭がいいとは思わないが、根性があることは証明されているので、脳みそに知識を叩き込むことはできるのかもしれない。
「わかりました、ティア様。私も昔、プランタを出ておりますので。お勉強なら多少のお役には立てると思います!」
その日を皮切りに、私たちは1ヶ月後のプランタ入学試験に向けて、試験対策を行っていくのであった。
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