第4話 決闘
市場からそう遠くないところ。ゼノビア城の西側に騎士団専用訓練施設がある。今の時間は使われていないとわかっていたので、そこで決闘を執り行うことにした。
決闘に持っていきたかった理由は、魔術具の取得もそうだが、ルイの実力を知りたかったというのが本音だ。弱そうなのは雰囲気だけかもしれないし、仮に剣技がだめでも戦いの中でなにか光るものがあれば、それはそれでいいと思っている。
とにかく、私の騎士としてどの程度使えるのかは、今後のことも考えるとかなり真剣に知っておかなくてはいけない優先事項だったので、早いタイミングでそれを知る機会を持ちたかったのだ。
「いくぞ!!」
すでに決闘は始まっており、訓練用の専用武具を装備したルイとフェリスが対峙している。
先に仕掛けたのはルイ。決闘開始の合図とともに突撃を開始していた。
「はあああああ!!」
「隙あり!!」
「ぐはあっ!!」
狙ってくださいと言わんばかりのルイの脇腹にフェリスの華麗な一閃が決まった。訓練用とはいえ、大人が本気で振るう鉄の塊(見た目は長剣)は、防具をつけていても悶絶する。当たり所が悪ければ死ぬこともある。
ルイは片膝をつき、苦悶の表情を浮かべている。
「……(よっわ)」
動揺を気取られないよう、真剣な表情を崩してはいけない。腕を組みながら、「計算通り」という顔をしながら、私は状況を理解しなければいけなかった。
「あまりに隙だらけで、逆に考え過ぎてしまったようだ……」
手元を見ながらつぶやくフェリス。
「踏み込みが甘かったわね。いまのは一撃で仕留めなければいけないわ、フェリス」
「申し訳ございません、アリア様」
腕を組み、冷静な表情で戦況を語るアリアに近づくフェリス。シルメリア組としては、初撃で気絶させるつもりだったのだろう。
だが、あまりにもゼノビアの騎士が無防備すぎて逆に仕留めきれなかったようだ。
ちなみにこの決闘は有効打を二本叩き込んだほうの勝ち。判定は防具に仕込んである魔術具が勝手に反応する。有効打の場合、背中に〇が表示される。
とりあえず、ルイは一本取られた。ちなみに、気絶、もしくは戦闘不能を申告した場合も決着する。
「……計算、通りだ!」
討たれた脇腹を抑え、よろめきながら立ち上がるルイ。
……計算、通り??
「隙を見せ、撃たせたのだ!これで、おまえの実力はわかった!!」
「(うそつけーーー!!!)」
ルイ以外の全員が内心で突っ込んでいると思う。
こいつは筋金入りの……かもしれない。
この決闘でルイが勝てる見込みはなさそうだ。面倒なことになる前に棄権したほうがいいのかな……。
「構えろ、三流騎士!第二ラウンドだ!」
「やる気だけは認めてやろう!」
震える体で構えるルイに対して再び対峙するフェリス。
すごく、まずい気がする。
「うおおおおおお!」
また無防備に突っ込むルイ。一応フェイントっぽい仕草をいれ、逆側から一閃を試みるが
「はあああああ!!」
読んでいたフェリス。回転を入れ、カウンター気味に今度はさきほど撃ったほうとは逆側の腹に強烈な一閃を叩き込む。
「……!!」
無言で両膝を突き、剣を落とし、そして、全身から突っ伏すようにルイは前へ倒れこんだ。
背中に2度目の丸の紋が表示される。完全に敗北が確定した。
「ルイ!」
さすがに今の一撃は強烈だった。急いで駆け寄り、脈を確認した。命は大丈夫そうだ。
「勝負ありってことで、いいかしら」
余裕の表情で直視してくるアリア。腹は立つが、仕方がない。私の騎士には修業が必要なようだ。収穫はなかったが、理解はした。
ルイは、少なくとも剣技はまだ素人だということは紛れもない事実だ。魔術具はあきらめよう。
「アリア様。そろそろお時間です。行きましょう」
息一つ切らさず、アリアの傍らに寄るフェリス。ルイが弱すぎてわかりにくかったが、このフェリスという騎士、かなりの手練れだ。
相手を無力化するための剣閃を最短距離で打ち込んでいた。これだけの騎士がついていれば、シルメリアの王も安心だろう。
「……勝負は、まだ、終わっていない!」
「なっ!」
剣にもたれかかるようにしながら、ルイが身体を震わせ立ち上がった。私は驚きを隠せなかった。
フェリスの先ほどの一撃は強烈。あれを受けて気を失わないのは異常だ。
「止めも刺さず、見逃すつもりか!シルメリアの騎士よ!」
大きな声を発し、フェリスを呼び留めるルイ。
っていうか、なんで煽ってんの!?
「かかって来いよ!三流騎士!」
「貴様、死にたいのか」
ルイの挑発に高ぶるフェリス。さすがに殺意を感じる。ゆっくりとこちらに向かって来る。
構えるルイ。だが明らかにふらついている。どう見ても虚勢だ。本当に死ぬって!
「フェリス!!」
大声で呼び止めたアリア。怒声だった。ビクッと思わず立ち止まるフェリス。うっすら冷や汗を浮かべている。
「安い挑発に乗らないで。時間がないわ。行くわよ」
「……申し訳ございません。アリア様」
幼児とは思えない落ち着き。冷静さ。この皇女もなかなか肝が据わっている。
ただ、もしこのまま戦闘が続くようなら、私とて黙って見ているつもりはなかった。静かに、気取られないように。魔力を放つ準備は、とうにできていた。
♯
「まったく!なに考えているのよ!」
訓練場を後にするアリア達を眺めながら、私はルイを問い詰めた。
「打たれ強いのはわかったけど、勝負は着いていたわ。あれ以上はただの殺し合い……いえ、一方的に殺されていただけよ!」
「申し訳……ござ……バタ」
バタ?って、え?
隣を見ると、再び倒れこんでいるルイ。限界だったようだ。
「……やれやれ」
ため息をつきながら、でもどこか安心した表情で眠るルイを見て私はつぶやいた。
「ヘンな騎士ね」
ああ、そういえば。
勝負に負けたから持っていったけど、あの皇女。
魔術具のお金、払ってないよね……。
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