第3話 王女の騎士
「本日付けであなた様の騎士に任命されました、ルイ・リチャードハートです!よろしくお願いいたします!」
記念すべき5歳の誕生日を迎えたばかりの私、ティア・ゼノビアは、王国の伝統に従い、護衛としてひとりの騎士を割り当てられることとなった。
ルイ・リチャードハート。爵位は男爵だ。
端正で彫りの深い顔が特徴的だ。瞳は青く真摯さと勇敢さを纏い、時折見せる微笑みは温かさと優しさを感じさせる。金色の髪は頭頂部が少し立っていて、その他の部分は頭の後ろへ流れるようになっている。一見、美青年だと思う。
ただ、なぜだろう。雰囲気かな。少し華奢な体躯から感じることなのかもしれないが。
「……よわそう」
そんなある日。
最近市場に出回り始めた、話題の魔術具を見に行くため、私はルイを護衛に引き連れ、城下の魔術具市を散策していた。店頭に並べられている魔術具の数々に、私は湧き上がる興味と関心を抑えられずにいた。
「はぁ。いいわ、ここ」
感嘆のため息を漏らしながら、お宝を見て回る私。楽しすぎる。
目移りしながらうろうろしていると、やがて目的とする品を見つけた。
「あ、あったあった」
ルンルンでその商品を手に取ろうとしたその瞬間だった。私とほぼ同じ年齢くらいの女の子が一足先にそれをかすめ取っていた。
「アリア様、よかったですね。こんなところで掘り出し物に出会えて」
フェリスと呼ばれた軽装備で同行する騎士らしき男が、少女の後ろから話しかける。
「予定通りよ、フェリス。ゼノビアの魔術具市は価値のある魔術具が安価で売られているわ。ゼノビアの方達はその価値を理解できないバカが多いだけよ」
アリアと呼ばれた少女が手に取った商品を眺めながら、ゼノビアを愚弄する。
身長は私と同じくらいだろうか。青空が投影されたような独特な青い髪に深くて澄んだ茶色の瞳。細身だが、どこかトゲトゲしい雰囲気と、年齢にそぐわない知性を感じるのは眼光の鋭さからくるものなのかもしれない。
身に着けている装飾品や服装から、高位の貴族か王族の類の人間だろうと推察できる。そしてその装飾品に刻まれた紋章の種類から、私はこの二人がどこの出身かを理解した。
「シルメリアの魔術具はガラクタばっかりだもんね」
ゼノビアがバカにされてなんか腹が立ったので言い返す私。
そもそもその魔術具は私のものだ!返しなさいよ!
「口を慎め、ゼノビアの少女よ。この御方はシルメリア皇国の第3皇女、アリア・シルメリア様にあらせられるぞ」
護衛の騎士、フェリスがわざわざ身分を明かしてくれた。確かに、顕示欲が強そうな顔をしている。
「おい、シルメリアの騎士!こっちはゼノビア王国第7王女、ティア・ゼノビア様にあられるぞ!その魔術具はティア様のものだ!渡してもらうか!」
ルイが吠える。簡単に名乗らないでよ、バカ騎士。
「シルメリアの皇女様が、お忍びでお買い物かしら?」
「ゼノビア王との会談まで時間があったから。ついでよ、買い物は」
私の質問に気だるそうな態度で答えるアリア。
……会談?明らかに齢5歳程度の子供が王と会談というのはどういうことだろうか。
「私の国では、幼い時期から皇族としての使命を叩き込まれるの。ぬるいゼノビアの王族と一緒にしないでね」
私の疑問を察してか、鼻につく態度でそう語るアリア。
ああもう!いちいち態度悪い、この王女!やっちゃおうかしら!
いやいや。さすがの私でも王女同士、しかもこんな場所でいきなり喧嘩なんてダメだよね。
でも、魔術具は抱え込んで渡す気もなさそうだし。どうしようかなぁ。
……あ、そうだ。いいこと思いついた。
「シルメリアに売られている
「なんだと」
私の煽りに明らかな怒りの表情を見せるフェリス。よしよし、いいぞ。
「あなたの騎士こそ、なんだか軟弱で頼りなさそうだけど。しかも頭悪そうだし」
「なぁんだとぉぉぉ!!!」
今度はアリアが私の騎士を煽り返す。まあ、その点は同意できる。
「その魔術具、わたしも欲しいの。そこでひとつ提案があるの」
一触即発な空気の中、私はアリアが持つ魔術具を指さし、そして言った。
「王族らしく、ここは騎士同士の決闘で決めるというのはどうかしら?」
お互いの感情的には火が灯り始めている。この流れなら
「アリア様。まだ少し時間はあります。やらせて下さい」
「そうね。ここはお互いの立場をはっきりさせておくべきよね」
私とルイを睨みつけながらアリアは言う。決まりだ。
「ルイは?」
「望むところです!!!」
顔に似合わず、やる気と気合だけは一丁前かもしれない。
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