第4話

 俺はマネキンたちを部屋の隅につめて置くことにした。あとはどうなっても知らないから、別に横に寝かせても構わないし、折れたっていいわけだ。俺は一先ず、おじさんのマネキンを部屋の隅まで運んだ。遺体を運ぶのは気が滅入った。しかも、下半身が硬直した状態だから、俺の腹に当たって不快極まりない。こういう形にしたのは、死後も性生活を楽しみたいという願望の象徴だろう。運んでいる間、俺の腹に当たっていたが構わずにいると、最終的に根元から折れてしまった。俺はおちているその黒い塊をスリッパをはいた足で蹴った。これはさすがにまずいなと思ったが、とてもじゃないけど、手で触ることはできなかった。


 それから、おじさんが喜ぶように、前と後ろを若い女でサンドイッチしてやった。そうやって俺は好みでないマネキンをどんどん端に運んだが、重くて汗だくになってしまった。運んだあとで、最初からビニールでもかけておけばよかったと後悔した。もう、奥の方には手が届かなくなっている。仕方ないから、上からブルーシートを持って来て覆えばいいと諦めた。


 俺は遺体を見ながら暮らす気にはなれなかった。せめて、部屋を広く使おうと、全部を端に詰めてしまうことに決めたのだ。お気に入りだったキャメロンを含む数体のマネキンだけ残して、後は見えないようにしよう。


 マネキンの中には、夢を見てるみたいに、きれいな子が多数混じっていた。まるで、妖精みたいだった。こんな可憐な子が、何でおじの毒牙にかかってしまったのか。もしかして、騙されて連れて来られたのかもしれない。キャメロンもそう言っていた。最初はプールサイドで水着を着て遊んでいるだけでいいと言われたが、現場に行くとみんな裸だったそうだ。トップレスになれば五万、その後客の相手をすれば二十万円を提示されたということだった。モデルとしての収入はわずかだったから、仕方なくその提案を受けることにしたそうだ。


 この子もきっとそうだろう。決して元からの売春婦ではない。生きている時に会いたかった。そして、金で思い通りになるタイプの人なら、愛人にしたかった。


 おじさんという人は何という罪深いことをしたんだろうか。美しい姿を永遠に留められたとしても、触れたり、行為ができる訳ではないのに…。おじさんは白人の美女をコレクションしたかったのだろうか。どうしても、理解ができなかった。生物は生きていなかったら意味がない。


 俺は誰も見ていない場所で、泣いたり笑ったりした。

 床をたたいたり、笑い転げたりした。


 しかし、正直に告白すると、俺も何時間かその場にいるとそのマネキンたちに魅せられ始めていた。じっと見つめる瞳は澄んでいて、俺に微笑みかけるようだった。金で繋がった関係だから、アジア人の俺にもみんな優しく接してくれる。


 ふくよかな丸い胸と腰と、気持ちがいいくらいまっすぐに伸びた足。すべての女が今は俺の物だ。もう、おじの物ではなく、俺が所有者なんだ!


 俺は時間を忘れていつまでもその部屋で過ごしていた。何度も同じ場所を行き来して、気に入った子を何人か選んだ。もう、キャメロンはその中には入っていなかった。

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