第18話 空梅雨の夏祭り(後編)

三人が神社に着くと、昨年と変わらず夜のお祭りの光景が目に入った。

今年は雨が少なかったせいか、気温は高い分湿度は無くカラッとしていた。


人の出も、昨年より多い気がした。


妹はいつの間にか消えていた。


狭い敷地内で、いつかは遭遇するだろうと少年は思っていた。



何時もの様に、二人手を繋ぎ宝物庫脇へ行き、お辞儀をしてから少年は酒を呑んだ。

昨年よりも気持ちの落ち着きはあったものの、スイが隣に居る事にとても幸せを感じていた。


暫くして、今年も村長に呼ばれた。

二人で拝殿の方に脚を運ぶと、村長はやはり同じ様に取巻きと一緒に居た。


今年の少年は、お祭りの係でも無いし何もしていないが、村長は昨年の行いをまた褒めてくれた。

そして、祝言の話を聞いて来た。

二人の上げたい時期を教えて欲しいと言った。


二人は嬉しそうに顔を合わせて考えていた。


昨年の秋から村に住み始めたスイは、冬眠を終えて初めての夏。

来年の秋頃が良いと話した。


村長は快く引き受けてくれて、また近くなったら打合せをしようと言った。


その後、村長含めた村の役人と酒を呑んだ。

皆、大変優しく少年とスイに気を遣ってくれていた。


当然ながら、スイの事を聞かれた。

既にスイとは話を合わせていたので、スイは少年の居る街の出身と言う事にしておいた。


その後、驚く事にスイも少しお酒が呑みたいと言い出した。

少年はスイの意外な発言に戸惑いを隠せなかったが、村の役人達は大変喜んでスイに酒を注いだ。


スイは一杯で、白い肌が夜でも分かる程赤くなった。

少年は些か心配だったが、スイはとても陽気になっていた。

何時も大人しいスイが少し喋る様になったものだから、村長も村役人も嬉しかった。


村役人の一人がスイに質問をした。


「そう言えば、翠さんはこの神社に一人でちょくちょく来られてるみたいですね?

村人が何名か見ています。余程、思い入れがあるのですか?」


スイは意外な答えを放った。

「いいえ、ここには美味しい物が沢山有るんですよ。」

笑いながら言ったので、皆は冗談だと思い大笑いした。


「翠さんも、お酒を飲むと面白いな。」

皆が笑ってくれたので、少年は安心したがヒヤッとした。

スイが冗談で言っていないのは、少年だけが知っていた。



否、その話を笑いながらも真剣に聞いていた人物がもう一人居た。

村長だった。

村長は少し引っかかった発言ではあったが、流石に勘違いの取り越し苦労だと考えていた。


この村の長になって早十数年。

村長はとても優しく温厚で、頭も良く村の先々迄を考える力があった。

そんな性格故に、村人で長を嫌う人間は皆無だった。

村で生まれ、村で育ち、村を愛し、村人を愛した。




スイはその後、少年の肩にもたれかかる様に寝てしまった。

そんな、何時もとは違う子供に返った様なスイがとても愛らしかった。


その後少年はスイを背負って参道へ降りると、自分達を探している妹の姿があった。

妹の所に行き、その隣に居た男性を紹介された。

とても気立の良い、優しそうな男性だと思った。

男性は、少年と同じ街の出身だと言うので、スイを近くにあった長椅子に優しく下ろして

自分の膝の上に寝かせ、右手で優しくその顔を撫でながら、その男性と色々と会話も弾んだ。

男性は、少年の仕事にも大変興味がある様だった。



その後、再びスイを背負って四人で神社を出た。


虫が水を欲しがるかの如く、少々苦しそうに鳴いているように聴こえた。




少年は、スイを背負った刹那から驚いていた。

スイはあり得ないくらい軽かった。

まるで子供か、赤子が少し大きくなった位かと思う程の軽さだった。


その後皆で家に帰り、少年はスイを布団に寝かせて風呂に入ろうとすると

スイは寝言を言っていた。



「イ、ワ、、ナ」


スイは何となく、そう言っていたようだったので

少年は前回食べた、岩魚の燻製が余程美味しかったのだとスイを見ながら微笑んだ。

風呂に行く前に、そうっと寝ているスイに近づいて優しく口付けをした。


何時もより少しだけ体温の高いスイが、何時もの様に美しい寝顔で眠っていた。

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