第14話 共存のはじまり
少年は街の皆にも結婚の報告をすると、皆は大変喜んでくれた。
お嫁さんはいつ頃街に来て、一緒に住むのか?
皆が少年に同じ質問をした。
少年はそれ以前に、重要課題を抱えていた為に、街の知人には
「暫くは実家の農作業を手伝う必要がある故。」
と軽く濁していた。
そして、街に戻った翌月に、村に帰る段取りをした。
仕事は相変わらず忙しかったが、新婚と言う事もあり皆が休みを作ってくれた。
秋も深まり、山の木々は「美しさ」の他に言葉が見付からない程の、見事な紅葉で色付いていた。
実家に戻ると、母と妹とスイの姿があった。
三人は畑で農作業をしていた。
スイは相変わらず美しい容姿と、手慣れた動きで仕事をこなしていた。
祭りの日以来だった少年は、スイに会えた嬉しさもあったが恥ずかしさの方が大きかった。
三人の側に行き、少年が他所他所しくしていると妹が空かさず冷やかしを入れた。
少年にとっては、その冷やかしが嬉しかった。
スイへかける第一声が見つからなかったからだった。
そんな間も無く、スイが言葉を放った。
「幺さん。お帰りなさい。お疲れ様です。」
少年は安心と嬉しさを顔に出しながら
「ありがとう。ただいま。」
と言った。
夕暮れ前だったその日は、少年も三人に混ざり農作業を手伝った。
農作業を終えると、スイは風呂を炊く準備をした。
その後は母と一緒に夕飯を作っていた。
慣れないながらもスイは母の隣で、一生懸命に料理を覚えていた。
母も優しくスイに料理を教えていた。
少年はそんな二人の後ろ姿が、とても愛くるしく見えて幸せだった。
その後部屋に入ると、部屋はとても綺麗に掃除されていた。
元々几帳面な性格だった少年の部屋は、散らかっては居なかったものの
いつにも増して輝いていた。
夜になり、四人で夕飯を食べた。
スイは妹からの質問攻めにあっていた。
あまり突っ込みが過ぎると、少年と母がスイを庇った。
スイはやはり多くは語らなかったが、落ち着いた性格からか、周りを和やかにする雰囲気を作っていた。
家族四人で、とても暖かい時間が流れた。
少年はスイと部屋に戻り、先ずは街で一緒に暮らす事を提案した。
しかし、スイはそれを拒んだ。
何時もなら快く承認してくれるスイであったが、それだけは駄目だった。
少年は無理にとは思わなかったので、このままこの家に住む事を勧めた。
スイは喜んだ。
街での仕事を調整して、なるべく週に一度は村に帰ろうと考えていた。
スイが風呂に入っている時に、母から聞いた。
先日、少年が居ない日にスイが実家を訪れた時だった。
母が仏間に連れて行き、父と祖母に線香をあげてほしいと言った際に
スイが突然気分が悪くなり、その場に倒れてしまったとの話だった。
母は心配したが、暫くしてスイは元に戻りその日は農作業を手伝って帰って行った。
母も薄々とスイの秘密を感じている様だったが、必要以上にはそこには触れなかった。
そんな母に少年は感謝した。
いずれ話す時が来るかも知れないが、今はまだ自分達をそうっとしておいて欲しかった。
仏間に入った件は、少年は納得していた。
きっと祖母と相性が悪いのだろうと思っていた。
今後は無理に近づく必要は無いと考えていた。
その夜、小さな布団の中で二人は話をした。
少年がスイを抱きしめながら言った。
「私は何となくですが、気が付いています。でもそんな事以上に私は貴方を愛し、貴方の愛も感じています。
その真実だけで、今は幸せです。ゆっくりで良いので貴方を知って行けたら。」
スイは黙って聞いていた。
少年は続けた。
「貴方はここで暮らし、私もなるべく帰るようにします。でもあまり頑張りすぎないようにしてください。」
そう言うと、スイが驚く程の力で少年に抱きついた。
その手は少し震えている様だった。
「本当にありがとうございます。ずっと貴方の側に居たい。」
スイは泣いていたが、とても幸せそうだった。
少年も幸せだった。
窓の外に見える月は、綺麗な三日月で二人を優しく照らしていた。
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