金城なこ(第6話)
金城なこ
本当にいいんだな。
3人の担任である体育教師がなこに質問する。
なこに迷いはない。
「嫌ですよ。あんな霊長類剥き出しの欲の塊みたいな筋肉バカと私が同じ柵で過ごすなんて。」
なこは毒舌だ。天然なりせと乾燥しているせな、3人の相性は完璧だった。
せなが英文科に進学したのは予想外だったが結果に満足はしていた。なこは週4日しか登校しない。金曜日には合宿・遠征・大会と未来のオリンピアンは大忙しだった。
2002年5月生まれ。ひとりっ子。母は元シンクロナイズドスイマーで、現在は県庁で広報をしている。父は琉球新報の政治部で、日夜県内の政情を事細かに記録していた。2人が忙しくなるのは、毎年決まって県議会員が決まる時、慰霊の日の前後、本土復帰のセレモニー、世界沖縄県人会のパレードだった。
なこは寂しくなかった。公務員宿舎には同い年のご近所さんが沢山いる。平日は赤嶺家にお暇すればいいし、週末は陸上漬けの半生だからだ。
なこには誰にも言えない秘密がある。彼女は同性愛者だ。りせはそれに気づいているが、言葉にはしない。なこの想い
事件前日なこは赤嶺宅のリビングにいた。今宵の映画は アメリカンビューティー 紫苑の私物だ。彼の書斎から円盤をひとつ拝借する。灯りを橙から黒に変える。ルートビアをコップに移し替える。
"つまらない"
りせがいないのだ、雄星と2人きりはせなに気が引けて精神的にきつい。生憎せなも今日は県外にいる。
「なこ、あの人バイセクシャルだよ。」
雄星の口が開く。紗蘭さんは女子校出身であるが故にそういうものに色眼鏡がない。なこは驚いた。自分にもチャンスが眠っているかと思うと嬉しかった。
なこがせなと出会ったのは保育園の時、共に両親が共働きだった為、夜間まで預けられる園に毎晩2人きりだった。2人はお昼寝の時間に天井に映し出される、数多の偽りの星々が好きだった。2人がりせと出会ったのは小学校の入学式。住所が近い3人は縦一列に並んだ。
忙しいなこの為にせなは、宿題と自作の試験対策ノートを毎回届けてあげていた。毎朝みんなより少し早めに教室へ入る、3人で机を並べて鉛筆を握る。そんな日々が中学まで続いた。
或る日セクシュアリティに関する授業が行われた。死相のように顔面蒼白になるなこ。それに気づき途中で保健室に連れ出したくれたのは、りせだった。保健室のカーテンの中なこは独りよがりに泣いた。
事件3日前りせに呼び出されたなこは人気のない3階音楽室隣のお手洗いにいた。りせから何か言われるのは珍しい。広めの個室に2人で入って鍵をかける。りせの艶やかな唇が震えた。「なこあのね私、」オスプレイが上空を飛び、2人は秘密を共有した。
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