赤嶺雄星(第4話)
赤嶺雄星(ゆせ)
雄星は小学生までインターナショナルスクールに通う。2000年1月1日生まれのミレニアムベイビーだ。
0歳の時、実の母親を亡くした彼は再婚相手の棃麻(りま)さんを実の母のように慕う。実の母親の記憶は殆どなく、写真でしか顔を見たことがない。
医学部に合格した時は、親戚中から連絡が来て電話が鳴り止まなかった。母の背中を追い、単身父の実家である京都へと旅立つ。そんな雄星に訃報が来たのは、インターン先で徹夜残業をした8月の朝だった。
雄星とりせは仲のいい兄妹と近所では有名だった。2人は毎朝一緒に学校へ行き、家へと戻る。何気ない日が幸せに溢れていた。
りせには、せな と なこ という幼馴染がいる。雄星はせなに秘めた恋をしていた、彼自身毛頭気づいてはいなかったが。せなも雄星の胸中を手に取れる程、いつの間にか2人は引力に導かれていった。雄星のせな贔屓は、バスケのチームメイトも両家も呆れるほどだった。りせの次にせなを気遣いそばに寄り添った。
ある日中学受験を終えたりせが、泣きながら帰ってきた日があった。玄関の開く音と同時に長椅子で本を読んでいた当時中学3年生の雄星の膝にりせは顔押し付けた。目を晴らしたその顔上げながら、「私もうダメかも。」と優しく呟いた。雄星はあぁ、あの人のことだなと思い頭を撫でた。絹のように柔らかな髪が彼の手をすり抜ける。
次の日の朝。2人の上には毛布がかけられ、机の上には透明の膜を被ったおにぎりと本が置かれていた。
小学校で兄妹は、生徒会に入った。週末のボランティアと月曜日の朝会からお昼の放送まで毎日忙しかった。2人は平日の放課後毎日違う習い事をしていた。月曜日ピアノ、火曜日学習塾、水曜日乗馬、木曜日スイミング、金曜日雄星はバスケでりせはバレエだった。必ずと言っていい程課題が出た。土曜日はバイオリンだというのに、毎朝6時になる前鶏の鳴き声と一緒に起きた。毎日が目まぐるしかった。毎週金曜日の夜、友達と観る映画が2人の何よりも癒しだった。
10年後、飛べない鶏の鳴き声は悲しみの知らせを告げた。
お葬式の日、百合の花を添え終わり食事を囲むみんなを横目に、雄星とせなは雨に打たれていた。2人の時は止まったまま動けない。傘を刺したせなは声を殺しながら泣き、雄星はせなを優しく包み込んだ。漆黒の闇の中満月だけが光り輝く。1匹の猫の目がこちらを向いた。電照菊の灯が消え、やまない雨は2人の涙を隠した。
事件当日最初に警察の事情聴取を受けたのは雄星だった。昨夜からりせが帰って来ないこと、少し前から様子が可笑しいかったこと、事細かに説明する。雄星は、ひとつだけ嘘をついた。本当は犯人を知っている、りせの身に何が起こっていたのかも。いつかその時が来たら明かそうと思い今はそのことを胸に秘めていた。
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