第29話 謎の少女(2)
「こんの……離せーっ!私はあんたたちに用はない!」
可憐な見た目ではあるが少女の声は勇ましかった。腕を引っ張って逃れようとするが、男の機械化された腕から逃れそうもない。少女の無駄なあがきにサイボーグの男は笑った。
「お前が無くても俺達はあるんだよ。こんなところで機械化されていない人間がなんの用かな?」
「……世界をこの目でみるため」
少女の回答に男達はまた声を上げて汚く笑う。
「何言ってんだ。ジャーナリスト気取りか?残念ながらやつらはとっくに絶滅してるよ」
「顔も身体も良い。
「研究所の連中に売るのはもったいないよな。……俺達と遊ぶのもありだろう」
男たちの汚い笑い声に少女はがっくりと
「ふふふ……あはははは!」
少女は笑っていた。恐怖のために震えていたのではなく、笑いを堪えるために震えていたのだ。男達は思わず動きを止めた。
「あんたたち……そんな生き方してると死ぬよ。神様から天罰がくだる」
「は?」
笑い出したかと思えば突然真剣な眼差しになった少女に男達は戸惑い始めた。
「お嬢ちゃん、頭がおかしいのか。残念ながらラボでは脳みそまでは治せねえんだ」
そう言ってひとりの男が笑い飛ばすと再び路地裏を一歩前へ踏み出した……その時だった。
「その子を離せ!」
男達の背後で威勢のいい声が響き渡る。少女は背筋をぴんっと伸ばして自分を助け出そうとするヒーローの姿を目に焼き付けようとした。
「これってもしかして……夢にまで見た運命の出会い?」
少女はミコトの姿を見るなり呆然とした。美しい青色の瞳が大きく見開かれる。
「あの子……」
小さな人影の手には小柄な体に見合わない、大きな銃が握られている。そんな銃を片手で軽々と持っているから不思議だ。
「ああ?なんだてめえ」
「まだガキじゃねえか」
少女の腕を掴んでいない、両脇に控えていた男が飛び出した。体格を見て何とかなると判断したのだろう。ミコトは男達に向かって引き金を引こうと狙いを定める。
「駄目!」
少女が必死な形相で声を上げるのを聞いてミコトは感動していた。青い大きな瞳と整った顔の造形にミコトの胸が高鳴る。
(俺に向かってくる奴らに向かって言ってんのか?だとしたら相当優しい子だな……)
「撃っちゃ駄目!」
「って……俺の方かよ?」
動揺したミコトは狙いを定めることができず、男達がミコトに近づいて来る。
(おいっ。これってやば……)
ミコトが衝撃に備えて腕を前に出して盾にしようとした時だった。背後に思いっきり上体を引っ張られ、尻もちをつくように倒れる。そのお陰でミコトは男の硬い鉄の塊でできた
「リガルド!」
ミコトのフードを引っ張ったのはリガルドだった。難なくサイボーグの男達の拳を受け止めると左右に撃ち払ってしまう。ふたりの男たちはうめき声をあげてビルの壁に衝突した。
「急に飛び出していくから何かと思えば……。操縦席から出るなと言っただろう」
腰に手を当てながらいきなり説教を始めたリガルドにミコトは腹を立てながら前方を指さす。
「女の子!女の子が
「女の子……?」
リガルドが遠くをぎろりと睨んだだけで、少女の腕を掴んでいた男が震えあがった。初対面にリガルドの
「くそっ……!」
男達はさっきまでの威勢はどこへ行ったのか。猛スピードでミコトの視界から消え去っていった。リガルドから醸し出される雰囲気から敵わないと悟ったのだろう。
「もっと冷静に行動しろ。【インターナルガン】を撃って騒ぎになったらどうする。その銃はなあまり見せつけていいもんじゃない」
「分かった……分かったよ!うっせーな」
再び始まった説教にミコトは片手を振る。そんなふたりに向かって駆け出してくる者がいた。
「待ってー!」
路地の奥から走って来たのは少女だった。ポニーテールの髪をなびかせながら両手を広げている。その光景にミコトの心臓が高鳴った。少女の青い瞳は眩しいぐらいに輝き、その表情は喜びと感激に染まっている。
(あのポーズって……ハグするやつじゃあ……)
ミコトが期待して柔らかい感触に備えていると……少女は華麗にミコトを通り過ぎていった。
「え?」
思わず疑問の声を零してしまう。少女はリガルドの首元にがっしりと腕を回して飛びついていたのだ。
「助けてくれてありがとうございましたっ!……運命のお方!」
喜びに満ちた少女の表情に抱き着かれたリガルドは困惑している。ミコトはその光景にショックを受けた。
「いや、助けたの俺だけど!おっさんじゃねえから!」
(これは……男としての俺のプライドに関わる!いくらおっさんが強い男でもな、いちばんに助けようとしたのは俺だから!抱き着かれる権利は俺にある!)
ミコトは少女の感謝の気持ちがリガルドに向いてしまったことに激しい怒りを覚えていた。ミコトがひとりで拗ねているのも知らず、リガルドは困ったように自分から少女を引き離そうと苦戦していた。
「ミコト……この子はなんだ?」
「知らねえよ!」
ミコトは不貞腐れながら土埃をはらいながら一人で立ち上がった。
「世の中不公平すぎる……」
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