領域外:【ミクスチャー】
第27話 監獄都市【ミクスチャー】
合流ポイントである巨大なビルの廃墟。鋭利な刃物が空を突き刺すようにそびえ立つ様は巨大なオブジェのようだ。自然に戻りかけた景色の中で熱風と爆風で変形したビルが異様な存在感を放っていた。
リガルドは少しずつ明るくなっていく空を見上げる。バイクを停止させると後ろから追いかけてきていたコンラッド達も足を止めた。
(そろそろ到着する頃だろう)
リガルドが眺めていた方角から何かが近づいて来る。それは、ミコトが操縦する卵型の乗り物とローリーだった。彼らの姿が目に入るなり、リガルドの体が軽くなったような気がした。レーダーの反応から無事であることは知っていたが、実物を見るまでは気が気でない。
リガルドは思わず大きく手を振って、腹の底から叫んだ。
「ミコトー!無事かー?」
「ローリー!よくやった!」
リガルドに続くようにコンラッド達も叫ぶ。
「うるせー!叫ばなくても聞こえてんだよ!通話機能があるんだから!」
いつもの憎まれ口を耳にして、リガルドは思わず口元をほころばせた。
「本当に。無事でよかった……」
「まさかお前らが【ファング】のボスを倒しちまうとはな!【アレス】に立ち向かうとはやるじゃねえか!」
コンラッドが誇らしげに言う。
「ローリー、あんたは片腕だろう?それにサイボーグ化してない人間の子供……。どうやって戦ったのさ?」
「……そりゃあ、まあ……それは俺が機転を利かせたお陰だろう!」
「はあ?殆ど俺が戦ってたんですけど~」
「何カッコつけてんだよ!どう考えても俺の作戦勝ちだろうが!」
「お前こそ。何言ってんのだよ~?」
スカイラーの質問にふたりの子供じみた論争が巻き起こる。そんなやり取りの後ろでコンラッドとスカイラーの笑い声が聞こえてきた。そんな中でもマーシーは「どーでもいいー」と呟いている。
会話が盛り上がる中、リガルドだけは考え事をしていた。
(恐らくミコトが【魔術】を酷使したんだろう。体のダメージが重くなければいいが)
心配そうに操縦席の窓型ディスプレイ越しにミコトの表情を確認する。ローリーと言い争いをしている姿は元気そうに見えた。
「ミコト」
「……なんだよ」
いつになく真剣な声色のリガルドにミコトが身構える。
「大丈夫だったのか?戦闘中に突然寝たりしなかったか?」
リガルドの問にミコトの顔に不快な色が浮かぶ。眉間に皺を寄せ、大きな目が半分ほどにまで細められてしまった。
「赤ちゃん……」
マーシーが呟くと、一同がどっと笑い声をあげた。
「あ~寝てた寝てた!それどころじゃないってのにね~」
「おいっ!別に寝てたわけじゃ……」
ローリーの揶揄いにムキになるミコトを見てリガルドは微笑ましく思うと同時に心配にもなる。
(やっぱりな。力を使いすぎてオーバーヒートを起こしたか)
リガルドの視線に気が付くと、ミコトは慌てた様子で続けた。どうやら【魔術】の副作用のことを無言で批難しているのに気が付いたようだ。
「この通り、俺は問題ねえから!十分休んだし!」
(相当無理をしたらしいな)
ミコトの若者特有の強がりをリガルドは静かに受け入れる。同時に相性最悪だと思われていたローリーと窮地を乗り越えてきたのだと思うと感慨深く思えた。
(窮地に立たされて協力せざるを得ない状況になったからか。二手に分かれた時はしまったと思ったが……。ふたりにとってはいい機会だったな)
リガルドは視線を外すとふっと柔らかな笑みを浮かべた。
「よく頑張ったな」
小さな子供を褒めるような言葉が自然と口に出て、リガルドはハッとする。頭の中に再び女性と赤ん坊の映像がぼんやりと浮かぶ。もしかしたら子供にそんな風に言葉をかける瞬間が自分にもあったのかもしれない。ありもしない過去の
「……おっさん、馬鹿にしてんのか?」
ミコトの冷たい口調でリガルドは現実に引き戻される。
「パパが褒めてるぞ~」
「おっさんは親じゃねえっての!……とっとと先へ進むぞ!」
(そうだ。ミコトは俺の子供じゃない。アレクシスが託した……子供だ)
リガルドはハンドルを握り直すと、前を見据える。
ミコトの声に呼応するように一同は再び【ミクスチャー】への道筋を進み始めた。
コンラッド達と行動を共にして20日ほどが経った。【
「あれが……【ミクスチャー】か」
ミコトの操縦席はリガルドの右側に戻っていた。
目の前に現れた新たな光景にミコトは操縦席から腰を浮かせる。
【ラグーン】のような最新鋭の動くビルは無いものの、建物が集合した景色は懐かしく思えた。今までに見てきた
「ミコト。町に入ったら気を引き締めるんだな。【セーフティゾーン】ではあるがヘルメットは極力外すな。
【ミクスチャー】は自由な都市に見えるが……監獄みたいな場所なんだ」
「監獄……?」
操縦席にリガルドの緊張した声が響いて、ミコトは思わず身構えた。
(サイボーグの残党兵が集まってるんだ。無法地帯になってるんだなきっと……)
機械化していない人間だと知られたらローリーと出会った時のように痛い目に遭うかもしれない。ミコトはもう痛くないはずの左腕に軽く触れた。
「……分かった」
危険な場所だと知りながら、ミコトはワクワクしていた。勿論、怖いという気持ちもあったがそれ以上に見たことのない景色が見られるという楽しみが
(一体どんな場所なんだ。ミクスチャーは……)
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