第25話 ファングとの戦い(6)
(でけえし……強そうだな)
ヴォルフの姿を視界に入れたミコトは息を呑んだ。背はリガルドと同じぐらい。2メートル近くあり、肩幅もある。当然のことながら両腕と両足は機械化されていたのだが、その形状は今まで見てきたもののどれとも異なる。恐らく最新の
傷だらけの顔と吊り上がった鋭い目つき。まさにボスと呼ばれるに相応しい男のように思えた。
ミコトは
すぐにミコトの目の前、正しくはヘルメットにディスプレイが映し出されると空気汚染度を確認する。
(くそっ……そこそこ汚染されてるエリアだな。長時間外に出てるのは危険だな)
本物の銃とは異なる感触ながらも、銃弾が発射される振動がミコトの手に伝わって来た。見えない
仕留め損なった弾丸はどこかの木に当たったらしく、ヴォルフの背後。少し離れたところにある木が倒れる音がした。
(くそっ!こいつ、デカいくせに速いな!)
ヴォルフは上体を屈めると、低姿勢のままミコトとの間合いを詰めてきた。同時にミコトは激しい頭痛に襲われる。膝を落としそうになるのを辛うじて耐える。
(こっちに向かって来やがった!)
ミコトは頭痛に耐えながら、再びインターナルガンの銃口をヴォルフに向けた。そのままミコトに向かってくる……かと思いきや急に背後に回転すると後ろから回り込んできたローリーに蹴りを入れた。
そのままローリーは背後に吹っ飛んでしまう。ミコトたちの周辺に生きているのか死んでいるのか。判然としない葉のない木がいくつか取り囲んでいた。その木の影を利用してローリーはヴォルフの背後から攻撃を仕掛けようとしていたのだが、見破られていたようだ。
そのままローリーは勢いよく木の幹に体を打った。木がミシッと鈍い音を立てる。
「いって~。バレてたか~」
「馬鹿にするなよガキが!こっちには【アレス】が付いてる。お前達の行動は全部読まれてんだよ!」
そう言ってヴォルフはつま先をローリーに向けたまま上半身を時計回りに回転させた。ミコトの背に冷たい汗が流れる。
(マジかよ……。そんな動きまでできんのか!)
焦った時にはもう遅い。ミコトの手に強い衝撃が走り、ヴォルフの腕がインターナルガンを薙ぎ払った。立て続けに右腕を伸ばし、ミコトの細い首を掴んで持ち上げる。
「ぐっ……は……離せっ!」
ミコトを片腕で持ち上げたまま、つま先を向けていた方に上半身を戻す。
「こっちにインターナルガンがあったのは誤算だったが……両方手に入れることができたんなら上々だ」
(息が……うまくできない……苦しい)
ミコトは冷たい感触の金属……ヴォルフの手から逃れようと足をばたつかせ、手を離そうと必死に動くがびくともしない。明らかにヴォルフは本気を出していなかった。ミコトがギリギリ耐える限り、首を絞めあげている。
ヘルメット越し。苦痛に歪むミコトの顔をヴォルフは楽しそうに眺めていた。
「おい。サイボーグの小僧。お前、こいつを運べ」
そう言って大きく振りかぶると、ミコトをローリーの足元に投げた。まるでボールを投げるかのような気軽さに、何もなすすべもないミコトは唇を噛み締めた。
ミコトは何とか体に響く痛みを軽減させようと、受け身を取ろうと試みるが上手く行かず地面に体を打ちつける。
「……っつ!」
「運べって……。俺は別に【ファング】の一員でもなんでもないんだけど~」
ローリーは頭を掻きながら立ち上がった。ボロボロになったミコトを見下ろして呟く。
「これからなるんだよ。いや、というよりお前らは俺の言うことを聞くしかねえんだ」
そう言って勝ち誇った笑みを向ける。
「今、お前の仲間のサイボーグ達は俺らの仲間や改造機体に囲まれてる。もし言うことを聞くってなら撤退させてやってもいい」
「……!」
ローリーの目が大きく見開かれる。
「もし断るって言うなら……。ここでお前をバラすし仲間も
凄みを効かせたヴォルフの目にミコトは咳き込みながら、事の成り行きを見守っていた。頭痛に耐えながらもひとつのことに集中する。
「あ~あ。分かった。分かったよ降参しま~す」
ローリーは両手を挙げて立ち上がるとミコトの側に一歩近づいた。
「それとさ~。そこにあるインターナルガンはどうするの?」
「こいつか?こいつももちろん、回収するにきま……」
そう言って振り返ったヴォルフは目を見開き、固まった。
「無い……!」
ミコトの手から落としたはずのインターナルガンがどこにも見当たらない。サイボーグ達さえも脅威を感じるインターナルガン。ヴォルフがどうしても手に入れたい
本物のインターナルガンだと思い込んでいたヴォルフの、一瞬の隙を突く。
ミコトは頭痛と全身の痛みに耐えながら、片膝を突く。その動きに反応するようにローリーがミコトの前へ動いた。
ミコトはローリーの失った左腕部分に手をかざすと頭の中で設計図を描き始める。
(あいつの心臓部分を確実に撃ち抜く。装着型のインターナルガンを……)
ローリーの左腕にインターナルガンを模した銃口が形を成し始めた。目の前に顕現していく武器にローリーは目を見張った見守る。
「お前ら……。何をした!」
ヴォルフが振り返った時にはもうローリーが跳躍していた。
燃えるような夕日の色に染まった、目前に迫るローリー。
ヴォルフには返り血を浴びた死神のように見えた。
ヴォルフの顔に初めて焦りの色が浮かぶ。がら空きだったローリーの左腕に装着された、インターナルガンに似た武器を見て
武器が消えたかと思ったら別の形をして現れたのだ。とてもバーチャル映像とは思えない。
まるで魔法でも使っているかのような。現実では考えられない現象にヴォルフは混乱した。
「おいっ【アレス】!どういう状況だ?俺の目の前で何が起きてる?」
『解析中です。暫くおまちくだ……』
ヴォルフは叫ぶが、今までにない現象にアレスがすぐに回答を導き出すことはできなかった。アレスが回答に辿り着く前にヴォルフの胸に強い衝撃が走る。久しぶりに感じる肉体的な痛みに耐えきることができなかった。
「ぐああああ!」
自身の臓器と機械化した肺が破壊されていく生々しい音が、ヴォルフが最期に聞いた音だった。
ミコトはローリーがヴォルフの止めを刺すのを、片膝を突いたまま眺めていた。
(やったのか……)
その場に両手を付き、ミコトは浅く息をした。今までで一番、厳しい頭痛だ。それでもなんとか意識を保とうとカラカラに乾いた土を握りしめる。
ミコトは自分の体も見下ろして、ゾッとした。
夕日に染められて赤っぽいオレンジに染まった全身が血を浴びたかのように錯覚する。
(俺は……死んだのか……?)
頭痛で正常に働かない思考のままミコトは地面に突っ伏した。同時にローリーの左腕に装着されたインターナルガンも姿を消す。
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