領域外:【ファング】との戦闘

第20話 ファングとの戦い(1)

「どこかに逃げ道はあるはず……このままの配置で行く!囲まれる前に一点突破するぞ!」


 リガルドの冷静な指示にミコトの頭が急速に冷えていく。これから起こる戦闘を予期して体は熱くなっているというのに頭は休息に冷えている。自分でもよく分からない体の状態にミコトは眩暈めまいがしそうだった。首を振って何とか持ちこたえる。


(こんなところでへばって、死んでたまるか!俺は生きて……俺の存在を証明するんだ!)


「了解だ!あのリガルドさんと共闘できるなんて、こんなに光栄なことはねえ!」

「こっちも了解したよ!」


 コンラッドとスカイラーのやる気に満ちた声が士気を上げた。相変わらずマーシーとローリーは黙り込んだままだったが戦闘に備えているようだ。改造された目を周囲に向けている。

 ミコトも窓と一体化したディスプレイを操作して敵を探った。


「あっ……!」


 ミコトは操縦席を傾け、右側面に反応があった場所に照準を合わせる。体格のいい男性のサイボーグが木々の間から飛び出してきた。銃口になった右腕と聞き覚えのある音を聞いて鳥肌が立つ。

 キュイイイイイというあの高音。記憶に新しいあの銃口の形状は……。


「あれは【無差別攻撃機体むさべつこうげききたい】の……!」


 ミコトが驚いている間にマーシーがうさぎのように跳ねながら躍り出ると、サイボーグの男の眉間みけんに銃弾を撃ち込んでいた。

 物凄いスピードで撃ち放たれた弾丸だんがんに目を見張る。ミコトは呆然と男が倒れるのを眺めていた。


(電磁力で弾丸を吹っ飛ばす、レールガンか……。あれも威力が高いよな)


 次々と殺傷能力の高い、ハイテクノロジーの武器を目にしてまばたきを繰り返す。ミコトは趣味で武器の仕組みを調べていたこともあるのでそういうことに詳しかった。


「ぼーっとしてないでよ。


 後からマーシーの声が聞こえて、ミコトの頭に血が上る。


「なっ!だっ……誰が赤ん坊だ!ぼーっとしてたわけじゃねえ。ただ、相手が無差別攻撃機体の銃口だったから……」

「【ラグーン】の坊主ぼうずが知るわけねえよな。【領域外】のサイボーグたちは撃破した機体を自分の体の部品に使ったりすんだよ!別に珍しいこっちゃねえ!」

「へえ……そうなのか……」


 コンラッドの声にミコトは納得する。


「私も。よく使わせてもらってる」


 そう言ってマーシーが腰のポケットから取り出したのは金属の破片だ。中にはネジも見える。それらをレールガンにバラバラと装填そうてんしていた。


「これは赤ちゃんがぶっ壊したローリーの左腕」


 そう言って嫌味たっぷりにミコトの操縦席をみて笑顔を浮かべる。小動物のような可愛らしい笑顔がミコトの神経を逆なでした。なんとか怒りを抑えて、サイボーグ達の生きざまを学ぶ。


(確かに……。そういうところから資源を調達した方が手っ取り早いよな)

「特に【ファング】は珍しい部品パーツ集めに執念を燃やしてる連中だよ。同じサーボーグ連中でも自分らの仲間でなければ容赦なく攻撃してくるからね。あたしたちも何度殺されかけたか……」


 スカイラーの声と共に、大きな銃撃が聞こえてくる。恐らくスカイラーが持つ大型のレールガンが撃ち放たれたのだろう。ミコトは軽く耳を塞いだ。

 次々と四方から襲い掛かって来る敵をそれぞれの配置についたサイボーグ達が薙ぎ払う。その様子を見て、ミコトはただ固まっていた。


(これじゃあ本物の戦場みたいじゃねえか……!まさか【領域外】がここまでとは思わなかった。サイボーグ達を仲間に入れたリガルドの判断は正しかったんだな)


 バイクの真上に飛び出してきたサイボーグの男性をリガルドが難なく【インターナルガン】で制する。


「それと一番厄介なのはファングのボスで……おっと!危ねえ」


 前方にいたコンラッドが会話の途中で鉄柱のような腕をしたサイボーグの男と戦闘を始める。ミコトはコンラッドの更に奥にいるサイボーグの女がコンラッドに銃口を定めているのを見つけて、反射的に照準を合わせた。


「行けっ!」


 ミコトが操縦スティックの頭頂部に触れると、操縦席の下に取り付けられていた銃口から電撃弾が放出された。勘づいた女のサイボーグは改造されたその両足で器用に側面に飛んでミコトの銃撃を避ける。

 驚いたような表情でコンラッドがミコトの操縦席を振り返っていた。そのすぐ後でリガルドのインターナルガンが被弾したのだろう。鉄柱のような男の腕が粉砕ふんさいするのが見えた。


「よそ見をするな!近づいて来た敵をすぐに制圧しろ!」


 リガルドは既に軍人と化していた。コンラッド達にきびきびと指示を出し、戦場を見渡し、活路を見出そうとしている。

 敵の襲撃を受けながらもバイクは前に進んではいた。それでもこうして襲撃が続けば、スピードを落とさざるを得ない。完全に止まってしまえば敵に囲まれて終わりだと、ミコトは何となく悟った。


(くそっ……スピードが落ちてきた……少しずつ敵も近くなってる気がする。どうすんだよ!この状況!)

「このままだと押し負ける。二手ふたてに分かれるぞミコト」

「は?この状況で?危険すぎるだろ!」


 リガルドの突然の指令にミコトが焦った声を上げる。


「完全に囲まれていない今がチャンスだ。敵数を分散させないことにはこの場を凌ぐことはできない」

「……そうだけどよ」


 ミコトの戸惑いを他所にリガルドが立て続けに指示を出す。


「ミコトとローリー。お前達は南東側へ抜けろ。今、合流ポイントの座標を送っておいた。敵をいたらそこに合流するんだ」

「は~?どうして俺がラグーンのガキのお守りなんかしなきゃなんね~の?」


 リガルドの通信にすかさずローリーの文句が飛んでくる。


「それはこっちの台詞だ!」


 ミコトも負けじと非難する。リガルドはインターナルガンを撃ちながら早口で続けた。


「他の三人は今戦闘中だ。敵数が少ないエリアはそっちだからな……。大切な家族を守りたければ俺の指示に従え。ローリー」

「……」


 ローリーはリガルドの説得に無言だった。そんなローリーの背を押すようにコンラッド達が声を上げる。


「そうだぞ!リガルドさんの言うこと聞け!俺達のためでもあるんだからな!」

「あんた、しっかりやんなよ!あたしたちは大丈夫だから!」

「……ローリーにかかってる」


 黙りこくるローリーを他所よそに、ミコトは悪あがきをしてみせる。


「分かれるったって……俺とリガルドは無理だろう?操縦席が連結してんだから……」

「ああ。言ってなかったがこいつは……切り離せるんだ」

「……は?」


 ミコトの驚きの声と共に、卵型のミコトの操縦席とリガルドのバイク部分が切り離される。ミコトは慌ててスティックを握り直した。どんどんリガルドの車体と距離が離れて行く。

 自動で平衡を保ってくれるらしく、独立しても操縦に対する不安はない。ただ、これからリガルドと離れることが酷くミコトを不安にさせた。


「早く行け!上官命令だ!」

「……」

「早くしろ!お前は……生きたいんだろう?」

「ああ~。もう、くっそ!分かったよ!行けばいいんだろ!行けば!」


 ミコトは北西へ進むバイクとは逆の南東側に向けてスティックと体を傾けた。


「おっさんも……ちゃんと生きてろよ」


 不貞腐れたようなミコトの言葉にリガルドは一拍遅れて、穏やかな声で答える。


「ああ。あとで会おう」






 

 


 

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