第2話 闇の王《カランルクラル》は貴石を愛でる
思った通り、
それでも、朝早くても、召使の
今日の主菜は、蜜を湛えた蜂の巣を山と積んだ大皿だった。黄金の
(しっかり食べないと一日が始まらないよね!)
そんな、人間のようなことを考えながら、チャクルは取り分け用の小皿にケーキをまずはふた切れ乗せた。付け合わせに、濃厚な
弾む足取りで、クッションを積んだ
滴る蜂蜜が、
(うん、甘い! 美味しい!)
口の中に広がる甘味の複雑な調和を、チャクルはうっとりと目を閉じて堪能した。
蜂蜜だけでももちろん十分に美味しいけれど、
(次はどうやって食べようかな……!?)
チャクルはわくわくと指を皿の上でさ迷わせた。──けれど、決断する前に呆れたような溜息が降って来る。
「チャクル、また食べてるの? 朝から、そんなに?」
冷たい目でチャクルを見下ろすのは、
「だ、だって。お腹が空いたんだもの」
同族の序列でも上位に位置する眩しい存在からのお小言に、チャクルは慌ててケーキが乗った皿を隠そう。
でも、無駄だった。チャクルがかけた
「
「そうだよ。まるで、カランルクラル様の
紅玉のクルムズ、翡翠のイェシュル──宿した貴石と同じく美しい仲間たちは、纏う衣装もその貴石の煌めきに相応しい色と豪奢なものだ。男女の別を問わず、とても綺麗。存在自体が放つような輝きに、目が痛くなってしまいそう。
「ご、ごめん……」
みんなの言う通り。
普通の
宮殿を構える強い
(本当に……? みんな、我慢してるんじゃない……?)
幸か不幸か。チャクルは長いこと悩んだり、反論を考えたりする必要はなかった。
「ね、チャクルなんか放っておこ。カランルクラル様よ」
誰かのひと声で、広間に集まっていた
ぴんと張り詰めた空気に、静かな足音が響く。
だって、広間にお姿を見せてくださったのは、闇の王と呼ばれる
(カランルクラル様が、お傍に……!)
精緻なモザイク模様が描かれた床を見つめるチャクルの視界を、漆黒の
衣擦れの響きが少し変わって、カランルクラル様が
「私の愛しい宝石たち。こちらへおいで。お前たちの石がどれだけ育っているかを見せておくれ」
涼やかな声に誘われて、
最前列に並ぶのは、もちろん希少な貴石を抱えた子たちだ。
「ますます青が深くなったね、イルディス。クルムズの石は炎のよう──イェシュル、なんと澄んだ翠だろう」
特に名を呼ばれる名誉を賜った子たちは、くすぐったそうにくすくすと笑っている。
(ああ、いつ見てもお美しい……)
屑石の分を弁えて、後ろのほうで彼女の番が来るのを待ちながら、チャクルは主の姿にうっとりと見蕩れる。
闇の御方の御名に相応しく、背に流れる
(お顔がすべて見られたら良いのに)
ただ──カランルクラル様の御顔の上半分は闇に包まれている。目隠しや仮面をしているということではなく、文字通り、そこだけ夜の帳が降りたように黒く暗く、何も見えないのだ。純黒の
カランルクラル様は、以前、敵対する
人間とは違うから、たとえ眼球が失われてもカランルクラル様が不自由することはない。とはいえ、誇り高く美しい御方が傷を晒すことを良しとするはずがない。そして、
チャクルたちはみんな、カランルクラル様の目となる宝石を生み出すために養われているのだ。
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