【連載版】 屑石は金剛石を抱く
悠井すみれ
序章 出会いと旅立ち
第1話 玉胎晶精《ターシュ・ラヒム》は貴石を生む
とある国の玉座の間は、見上げるほどの紅玉の列柱で支えられているとか。それぞれが繋ぎ目のない一塊の巨大な紅玉から掘り出された列柱は、もちろん、同じ数の
ほとんどの
* * *
柔らかな寝台の上で、温かな寝具に包まって。チャクルは真剣に悩んでいた。
(眠い……もう少し寝たい……でも、お腹が空いた……!)
何時に何をしなければいけない、という決まりはチャクルたちにはない。
月が沈むまでおしゃべりをしても良いし、太陽が中天に上るまで寝室にこもっていても良い。空腹を覚えたなら、広間に行けばいつでも菓子が山のように積んである。
(
思い浮かべると、やっぱり起きよう、という気分になった。寝具から出ている頬に感じる空気はひんやりとしているから、まだ「みんな」は起きていないのではないかと思うから。
「よいしょ、っと」
少し気合を入れて寝台から抜け出すと、チャクルは伸びをしながら寝間着を脱ぎ捨てた。
身支度を整えるために必要なものは、部屋の中にいつでも用意されている。顔を洗うための水は、冷たく澄んだものが
清潔な
着替えを終えて、鏡の中に映るチャクルの姿は、というと──
(うーん、普通)
美しい調度や衣装に比べると、とても平凡なものなのだけれど。
顔かたちは並みの人間の少女ていど。白に近い色の銀髪も、金の瞳も、人間にはない輝かしい色ではあるらしい。でも、チャクルよりももっと美しい「みんな」も同じ色を纏っているのだから何の慰めにもならないだろう。
何より、
「やっぱり、ある日急に育ってたりはしないよね……」
チャクルの胸もとを飾る水晶は、首飾りを垂らしたようにも見えるだろう。でも、鎖や紐から下がっているわけではない。
「それ」はチャクルの心臓に埋め込まれた水晶の欠片から育ったものだ。触れれば皮膚の一部のような感覚もあるし、ほのかな温もりもある。
チャクルは、か弱くも美しい
(
呼吸と共に微かに上下する水晶をそっと撫でながら。チャクルはしみじみとした溜息で鏡を曇らせた。
彼女がほかの「みんな」が起きる前に広間に行きたい理由が、その水晶だった。
(私だって、金剛石──は贅沢かもしれないけど! 紅玉や青玉、緑柱石を宿したかったのに)
その序列で言うと、ありきたりな水晶は一番下だ。ほかの「みんな」と顔を合わせると、闇の王の宮殿には相応しくない屑石の癖に、という視線が痛いこともあるのだ。
(で、でも。石の種類よりも、
そして、その
宝石の質を高める道に終わりはなくて、貴石を宿せる
そしてチャクルは、生まれてからというもの、カランルクラル様の
(だから──私にだって何か価値があるはず!)
彼女自身よりも主を信じて、チャクルは拳を握って頷いた。
カランルクラル様は、強い
あの御方の考えが何であろうと、彼女が生み出す石は、愛する主を飾るためだけに使われるだろう。
(とても名誉なこと。素晴らしいことよ)
石を捧げるその時に、彼女の心臓がともに抉り出されるとしても。そんなことは、ささいなことのはずだった。
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