11 目的不明の異世界転移
私はここ数日、体力維持のために庭を一周して、時折庭を眺めつつ読書をしていた。ぼんやりしていると、ふとある疑問に思い当たった。
「ねえ千里。私がやることとかないの?」
「『やること』とは?」
「私は毎日こんな風に読書とかだけで、特に仕事とかないの?」
自由に過ごせるのはいいけど、何もないのはどうにも暇になりそうだ。毎日ご飯とか寝る場所とかを提供してもらっているんだから、お返しをしないと割に合わない。っていうか高額請求とかされないかな?ねぇ本当に。これだけ至れり尽くせりなんだもん。
……と、語ると。
「何か……ないですね。はい、ありませんね!」
「いい笑顔で言い切らないで!本当に何もないの?」
周りにキラキラしたエフェクトでも見えそうな笑顔だった。そしてサムズアップもやめてくれないかな?刺さるんだけど。
「い、一応家事全般はできるから!それでもないの?」
「ないですね。それぞれ担当の付喪神がおりますので。料理、洗濯、掃除、庭の手入れまでそれぞれが行っていますので。彼らの仕事を奪うのは心が痛むというものですよ」
「ぐぬぬ…」
それもそうだと思う。屋敷の付喪神の仕事を奪うつもりはない。信頼もあるし仕事も確実だし、付喪神だからそれが最適な仕事なんだと思う。さらに元は道具だから年中無休で働ける。これに私が勝てると思う?無理だよね。
「まあ強いて言えば…嫁入りすればチャラですよ、チャラ」
「…そんな殺生な…!」
私にとってこの後の選択はこの世界で生きるか、元の世界で死んだように生きるかというものだ。だから文字通り殺生なのだ。
「正直に言わせていただきますと、ここに連れてきたのは宵様なのですから、私にその思し召しはわかりません。ですが推測で言わせていただきます」
千里はそう前置きして語り始めた。
「この世界は付喪神の世界。物というのはそれぞれの用途がございます。例えば筆である私には何かを書くという用途が、桃ノ木には櫛として人を着飾ったり髪を梳かしたりするという用途がありますね」
「そうね。道具っていうのは何かのために作られているものだから」
「人も同じではないですか。人それぞれ何かの能力がありますでしょうから、それを生かせる仕事をすればいいのです。持ち味を生かすってやつです!」
確かに励まされたが、私は指摘する。
「千里、その能力とやらがわからないのよ…!向き不向きがあるのはわかる。でも仮に見つかったとしてもそれをどこに生かすべきかわからないのよ…!」
「人は道具のように簡単ではないのですね…」
「ああ、ついに千里も人間の理不尽に敗北した…」
私は頭を抱える。
例えば、「社会の歯車」とか言う言葉がある。
小さな歯車がたくさん組み合わさって大きな機械を動かす様を、人が協力して働いて大きなビジネスを成功させる、みたいなものだ。
でも歯車は取り換えが利く。
だからどうせ人員にも誰か代わりの人がいるようだとも捉えられる。やることをその通りにやればいいんだから、どんな人員でも構わない。
社会とはそんなものだ。
強く求められることがあるのは、力や名声のある人だけ。
そして大した力や名声もない人は、歯車として使われるだけなのだ。
「……こうして考えていくと、ますますわかりませんね」
「でしょ?嫁にするのは百歩譲ってわかるんだけど、嫁にした後の目的がわからないのよ。ただ嫁が欲しいなら付喪神でも、何なら偽装結婚とかでもいいわけでしょ?」
「確かにそうですね…」
私はどうしてここにいるんだろう。
嫁にするとか言われてるけど、仮に嫁になったとして、その先は?そもそもどうしてこんな充実した世界に連れてこられたの?私に何をさせようっていうの?
毎晩私を呼んだ張本人と話していても、そんな話は出ない。
この世界を作った死神に呼ばれたんだから魔王なんかいないし、いたとしても自分で始末できるだろう。そして街は発展しているし、自分でインフラ整備している。何ならそういう風に改造するのもできるんじゃないかな。
異世界に来たのに、魔王を倒すとか文明を発展させるとかそういう目的がない。この世界は平和だし、デジタルや科学も一部では普及していて、他との均衡を保っている。それなのにわざわざいるのって不思議じゃない?
「やはり、宵様のことはわかりませんね。直接伺う方がいいでしょう。流石に暇だとゴリ押しすれば行けるでしょう」
「ゴリ押し…」
千里のこの見た目でゴリ押しとかそんな言葉が出てくると思ってなかった。本を読んでいるおかげか、意外と現代的な言葉も知ってるんだよね。…待って、言葉はわかるんだけどサムズアップって仕草はどこで学んだんだろう。
「そういうわけで、頑張って事情聴取してきてくださいね!」
「……事情聴取の使い方ちょっと違うと思うよー?」
まあ、聞かなきゃいけないことに変わりは無いか。
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