9 街デート(仮)
10話(次話)まで読んだ方がすっきりすると思います。
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「今日はどうだったかな?」
この死神は報告を聞いていても、やはり私に感想を聞いてくるのであった。
「今日は書庫に行って雑談でもしながら本を選んで、午後にはその本をひたすら読みふけった。それだけよ」
「そう。いい時間だったね」
宵様は作り物のような顔に、とてもいい笑顔を浮かべる。こんな中身スッカスカな話なのに。
「明日は街に出かけに行こうか。気に入ったものがあれば買ってあげるよ」「明日は街に出かけようか。好きなものは買ってあげるよ」
「そう」
これに関して言えば、正直買ってもどこで使うんだよって感じが大きい。好意を無下にするのはアレだから言わないでおくけど。
「食べ物も色々あるからね。チョコバナナに、フランクフルトに、アメリカンドッグとか」
「何で全部串に刺さってて、和風の街並みなのに和要素のかけらも無いものなのよ」
「ああ、焼鳥や牛串も忘れていたね」
丁度思い出したとでも言うように、ポンと手を手を叩いて言った。
「漢字になってなけなしの和要素はあるけど、串から離れなさい。いやむしろ串を抜きなさい」
「いい突っ込みだね」
うーん、ボケてきた側にいい笑顔で言われて、何とも言えない私がいる。二人しかいないから、私が言わないと変な空気になるし。
「他には何があるの?」
「教えてもいいけど、せっかくだから明日のお楽しみにしよう」
そして翌日は朝食も一緒に食べ、出掛けることになった。
「休日なんて久しぶりだね。最近は仕事の割り振りも自動化出来たから、また出掛けられるよ」
「それは帰りがけに言う台詞じゃないの?」
「事実だからね」
この死神は言い返しにくいことを言ってくる。
「もし迷ったら、スマホで連絡してね。うちの屋敷の場所は一目でわかると思うからいいけど、街は入り組んでいるから迎えに行くよ」
「はいはい」
そう。以前話していたスマホも与えられた。貰った時には驚いた。私が浮世で使っていたものとまるっきり同じものだったから。機種はもちろん、ケースや中に入っているアプリも同じだった。ネット接続ができないから使えないものもあるけど。私のスマホの概念をそのまま持ってきたらしい。そんなことができるとは。
そして新たに連絡用のアプリと、この結界内のマップアプリも入っていた。
オリジナル開発で、アプリの付喪神に協力してもらったんだとか。この世界は本当に思っていたより何でもある。
そうして話しながら階段を下っていくと、いよいよ街の喧騒が近づいてきた。
「さあ、ここが街の大通りだよ」
大通りは三車線分くらいの広さ。左右には店が立ち並び、その間をたくさんの付喪神が行き交っている。真っすぐに伸びているが、賑わっているので果てが見えない。
屋号入りの提灯もずらりと下がっていて、夜には情景が美しそうだ。それにまだ朝だというのに、そこかしこから食欲をそそる香りがする。
「そういえば、街に名前はないの?」
「街といっても一つしかないから、街で十分さ。大通りとか、一の道とかいう名前はあるけど。そういうのは京都とか平安京とかを想像してくれるといいね」
急に千年前のことを…。死神だから知っているのかもしれない。
「行こうか。実際に行ってみれば、よりわかるはずさ」
宵様はそう言って私の手を引いた。
「…人間だ……」
「生者か?亡者か?」
「宵様が連れているぞ」
ざわざわとした街の喧騒の中で、私を珍しがる声がする。宵様はそれでも動じずに私の手を引いて案内してくれる。
「街の北の方、わかりやすく言うならうちが見える方には物売りが多い。工芸品なんかも多く取り扱っているんだよ。そういう付喪神が多いからね」
「へぇー」
ぶらりと近くの店に立ち寄る。どんな店でもいらっしゃいませと売り子の付喪神がにこやかに笑う。宵様はやはり有名らしい。
「適当に見させてもらうよ」
「毎度ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
あまり意識していなかったけど、この店はどうやらアクセサリーの店らしい。物を物(付喪神)が作っているのかと思うとちょっと不思議な感じがするけど。
月と桜がモチーフの櫛、不思議な色合いのとんぼ玉を使ったかんざし。それからちょくちょく現代的なヘアピンやクリップがあるのがアンバランスなようだけど、和テイストで統一してあるから見栄えがいい。
「これも似合いそうだね」
私は物珍しさに眺めるばかり。それをいいことに宵様が選んだ品物をあれこれとあてがわれ、売り子さんが褒める。
「好きなものがないのかな?」
「そんなわけじゃなくて、いかにも高そうじゃない」
こんな世界なのでアクセサリーの店といっても商品はかんざしや櫛が多い。それにプラスチック製の安価な物ではなく、どれも一点物なのだ。値段も書いてないし触るのが怖い。
「値段は気にしなくてもいい。好きなものを買うと言ったからね」
そういう問題じゃないと思うんだけどな。
そう思ったけど、私は純粋な好意を無下にできる人間じゃなかった。
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