6. 死神とは?
夕飯は宵様と二人で食べることになった。死神を一人とカウントすべきかわからないけど。
「ああ、似合うね。私の見立て通りだ」
「着物が上等なんです」
「それを着こなす小夜もいいと言っているんだよ」
私が着ているのはクリーム色の着物に、秋らしく紅葉が散ったような柄の帯を締めた。これまた上等なものだと思う。それから着付け担当の櫛の付喪神・桃ノ木さんによって髪も結われた。桃ノ木さんはめちゃくちゃ美女だった。付喪神だから性別はないけど。
「忙しくて案内を千里に任せきりにさせてしまったね。うちの屋敷はどうだった?」
「全体的に旅館みたいだったけど、妙に現代的な部分があって不思議だったかな」
「うん。忌憚なきご意見・ご感想をありがとう」
宵様はちょっと引きつった笑みで答えた。
だって風呂・トイレは普通に現代にあるのと同じレベルだったんだもん。何なら私が住んでた安アパートより最新の設備だった。変な意味でカルチャーショック。ああそれとこんな世界なら、トイレの(付喪)神様も本当にいるのかもしれない。
「報告は千里から聞いているからね。明日は庭に出てみるのもいいかもしれない」
「まだ外には行けないの?」
「行かない方がいいね。この世界に慣れ切っていないから。あと二、三日ほどすればこの世界に定着するよ」
詳しく聞けば、この世界・結界内は基本的に物の概念のための世界。付喪神は物の概念の上位互換みたいな感じらしい。私はそもそも人間だからその対象外。「人間の秋月小夜」という概念が定着するには時間がかかるんだそうだ。
「庭の案内は千里に任せることになるけど、街に行くときは一緒に行こう」
「死神って忙しいの?」
「忙しいさ。毎日どこかで必ず命は尽きるものだから。知っているだろう?」
「そうね」
死神っていうのはなんとなくわかるけど、実際どんなものなんだろう。
「そもそも死神って何?浮世の認識とズレてるかもしれないから聞いてみるけど」
「私のことが知りたいのかな?」
「質問を変えます。死神という存在とは?」
笑顔で質問をすり替えてきたので、私も笑顔で聞き直す。
「死神は知っていると思うけど、生と死を司る存在さ。それは浮世でも知られているね。だから仕事について説明しよう」
死神は、人の命を刈り取りにくる存在。
やっていることはそうなんだけど、流石に全生物の命を一々刈り取りに行くのは大変だ。なのでやっているのは主に書類仕事なんだそう。書類の記載事項だけで生物の生き死にが決まってしまうなんて、大変な仕事である。
宵様は死神の中でも偉くて、他の死神達に仕事を割り振りする立場らしい。偉いから力もあって、こんな結界も作れちゃったんだそう。
「ここは実にいいな。浮世から便利なものが流れてくる。最近はパソコンやタブレット端末が入ってきてペーパーレス化ができて、仕事の割り振りや共有も楽になったんだ」
「まさかここに来て『ペーパーレス』とか聞くと思わなかった…」
宵様はとてもいい笑顔で言う。それまでは激務だったんだろうなぁ。そういう無駄な仕事が減るっていいよね。
「ネット回線の付喪神に協力してもらってるから、うちの専用のネットワークがあるんだよ。それからこの結界内でもデジタル化に対応しているのはうちだけだから、情報漏洩もない。他は使いこなせないからね。街には新しいものが嫌いな堅物な付喪神もいるから、技術はうちで独占するつもりだよ」
うわぁ。デジタル機器をゴリゴリ使いこなしてたよ。めっちゃデジタル強者(文字通り)だったよ。
「っていうかネット回線の付喪神とかいるの?」
「万物に神は宿るからね」
うーん、一言で片付けられたけど……変な世界だからそんなことあるかぁ…。電子レンジとか普通にあるしなぁ。
「そうだ、今度スマホを用意しよう。私と直通だよ」
「なにそれびみょい」
「私は嬉しいけどね。それなら結界内のマップアプリでも作らせよう。スマホは連絡手段だけではないからね。付加価値があってこそのスマホだ」
「まあ…それならいいかなぁ」
そして死神の見た目は色々なイメージがあるけど、浮世の人間の目の前に現れる時にはその人が思っているイメージに見えるらしい。一般的には骸骨の面にボロボロのローブと大鎌みたいな感じ。
でも本来の姿は目の前にいる、まるで作り物のようなイケメンだという。
「ああそういえば聞いていなかったね。こんなイケメンに求婚される気分は?」
「…自分で言うんだそれ…」
今言われた瞬間、普通に引きました。
そして本当はどうかと聞かれると、私は特に考えてなかった。ここで結婚するか、元の世界に戻るかという二択だから。正直、どちらがマシかという問題だ。
「おや。気分を害してしまったようだね。この質問をすべきなのは一か月後だった」
「是非そうしてくれる?」
とりあえずここまでのイメージをまとめると、宵様はかなり面白い感じの方らしい。今日まではただ話しているだけだけど、悪くはなさそうだと思った。
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