2. 死神と付喪神と人間のQ&A
「えーとあなたはさっき、自分が死神で、トラックに撥ねられた私をここに連れてきたって言ってましたよね?」
「いかにも。私は死神の宵だ」
はい、それは知ってます。あと神様が転生先を間違えたわけじゃなく、本気で(死)神様が私をここに連れてきたらしい。そもそも転生すらしてないし、やってることが誘拐に近い。
「それでちょっと聞きたいんですけど、この世界はどこで、私はどうやって連れてこられて、何をすればいいんですか?」
「全部じゃないですか」
「そっちがわかってる前提で話すからこっちはわけがわからないんです。一から十まで全部教えてください」
うん、この世界には報連相という概念がないのか!何ならその元のほうれん草もないのか!
「さぁさ宵様。教えてあげてください」
千里がニヤニヤと笑って言う。何でそんなニヤニヤしてるんだろう。うん、もういいから続けなさい。一連の流れをしっかり報告してくれたまえ!
「まず、この世界のことを説明しようか」
この世界…というかここは死神の宵様が作った結界の中らしい。
ここには浮世、つまり私がいた世界から流れついてきた付喪神が暮らしているという。
「幽世とか冥界とか黄泉とかいう名前はないの?」
「ない。なぜならここは私の独自の結界だから。位置的には黄泉比良坂の中腹から横にずーっと行った先くらいだよ。坂からの抜け道も作ってある」
「そんなもの作っていいの?」
「死神だから、できたこと」
どこぞの子供向けの教育ソフトウェアのCMみたいな言い方をしてこないで。
「大丈夫ですよ!人間はこちらに来れませんので。物というか付喪神だけです!」
「あ、そう」
何か安心した。こんな変な世界に人類が来ることがなくて。サムズアップする付喪神がいるような変な世界に。
「あと急に敬語抜きになりましたね、小夜様」
「あんたたちを見てたらこれでいいかと。私は嫁として連れてこられたならこれでいいでしょ?」
「そうですね」
千里はしっかりと頷いた。
「そこに関しても補足しよう。私の花嫁」
まず、ここにいるのは死神です。死神とは生と死を司る存在のことです。
そして私がトラックに撥ねられて死ぬはずなんだけど、死ぬ直前に宵様が私の魂をこちらに連れてきたということらしい。めっちゃ力技だった。
「じゃあ、今の私ってどういう存在なの?」
「肉体は浮世で昏睡状態で、魂だけをこちらに連れてきている状態だね。この世界は肉体がなくとも生きていける。付喪神は神の一種で、肉体がないだろう?」
知らんわ。にんげんだもの。神の肉体事情なんて知らんわ。
「付喪神のこの姿は肉体というか、仮の姿です。本体はしっかり道具ですよ。実体である道具は肉体って訳じゃないし、道具が壊れてなくなっても同じ種類のものがあれば付喪神として残るんです」
「千里は実体があるの?」
「はい」
それから一瞬で姿が見えなくなり、目の前にぽとりと一本の筆が出てくる。柄は茶色、穂先は白。
「こんな感じで、付喪神の姿は元の道具の姿を参考にできているんだよ」
「なるほどね。それで結局今の私って何者なの?」
「そうだね…幽霊とは違うし、結局のところ種族が人だから人間でいいんじゃない?」
そういうわけで、まだ私は人間卒業してないらしいです。
「あと、千里はこのままなの?」
「うるさくなるよ?」
「うるさいって認識してたんだね。じゃあそのままでいいかな」
するとすぐに筆が動き出して人間の姿に変化した。
「よくないですよ!使われない筆はただの筆ですから!」
「いや、お前は筆だろう」
「……」
彼はまごうことなき筆です。
そしてこれで本当にそういう世界に来たことが身に染みて感じられた。
「話がそれたけど…私は何のためにここに連れてこられたの?」
「そのままさ。私の嫁になるんだよ。道具と結婚はできないだろう?ならば人間の娘を連れてくるしかない」
まあそこまではわかったとして…。
「ねぇ、適当に連れてきた私をそのまま嫁にしていいの?」
「いい。この目で選んできたのだから」
彼は急に厳しい感じで答えた。今までフレンドリーな感じだったけど、急に恐怖を感じる。
「へぇ。選んできたんだ。じゃあ私にも選ぶ権利はないの?それから私をそのまま嫁にして幻滅しない?」
よくよく考えよう。そのまま結婚とか受け入れられる?
大体会って一日もしてないし、そんな人…というか死神を信じられる?
普通はまるで詐欺じみた話だと思うよ。
それから私もそんな清廉潔白純真無垢みたいな人間じゃないし。
捨てられたらどうなるかもわからないのに、結婚とかできる?
「……小夜の意見を尊重しよう。これから一月は、お互いを見定める婚約期間にする」
「婚約期間が終わって私が相応しくないとわかったら、元の世界で健康に生きられるように保障して。そうじゃないと平等じゃない」
これは最低限保障してもらわないと困ると強気に言う。
「約束しよう」
宵様はしかと頷いた。
これで、私と死神は婚約することになりました。
もちろん、破棄可能な契約で。
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