第33話:スタンピード②

「来たぞー!魔獣の群れだ!!」


それを聞くや否や、先ほどのしおれていた彼女はどこにもなく、その表情は血に飢えた獣のようだった。


「行くぞ!ハロルド殿!!」


「ああ、せっかく伯爵様との信頼関係を得たんだ。化け物共にここをつぶされてたまるか!お前ら、始めっから全力で行くぞ!!」


「おー!」「了解っす!」「おー!!」「了解なのです。」「ハイ!!」


「こ、こいつは・・・。」


「まるで地獄だぜ。」


「ゴブリンにスライム、ホブゴブリン、ゴブリンメイジ、ポイズンスライム、普通のスライムより一回り大きなスライムロードまでいるぜ!」


「それに、奴らの後ろにはオークやその上位種であるハイオーク、混乱之吐息(カオスブレス)を吐いてくるインプまでいます!」


「しかも、それらは数体なんてものじゃない。領地へと続く街道を埋め尽くしながら、こちらに向かってくる。」


兵士たちは、圧倒的な敵の数に恐怖していた。


ソーニャはあるものを見つけて恐怖で震えあがった。


「どうした?」


「ご主人様、やばい奴がいるのです。」


「何、十字傷の男か?!」


「違います!あれです!!」

ソーニャが指さす先には燃え盛る炎をまとった犬の化け物がいた。


「なんだあれは?!」


「ヘルハウンドなのです。炎をまといながら突進してきて敵に噛みつく、私たちの天敵なのです!」


「旦那、気負つけてくだぜえ!ヘルハウンドは、時間経過でしか消えない特殊な炎を吐きやす。」


「それに触れると、敵は骨や魂まで焼き尽くされて、二度と現世に戻れなくなるって言われているっす!」


「風も水も使えないのか・・・。」


だが、イロハは首を振った。


「いや、全く効かないわけじゃない。確かに倒すことはできないが、風も水も牽制ぐらいにはなるだろう。」


「そうか、ジャブ!水魔法を使えるか?」


「おうよ!それに俺の鎖鎌は伸びて敵を拘束も出来ますぜ。」


「そうか、だったら・・・ジャブ!ヘルハウンドを捕まえたらすぐにミネーラお嬢様のところにヘルハウンドを連れてくるんだ!」


「わかりやした!」


「え、わたしのところへ・・・ですか?」


困惑するのは当然だ。


「大丈夫です。ニャンニャンの時のようにスキルでお守りします。」


「・・・わかりました。協力しましょう。」


「よし、ジャブ!頼んだぜ!」


「おっす!・・・水聖霊よ、悪しき業火から尊き存在を守り給え!『精霊加護付与(エンチャントエレメンタル)』!!」


ジャブは鎖鎌に水精霊の加護を付与した。


「『北越神技(ほくえつしんぎ)・懲戒束(ちょうかいそく)!』」


そう叫ぶと、ジャブは鎖鎌を投げた。


鎖鎌は、目にもとまらぬ速さでゴブリンやスライム、オークを切り裂きながらヘルハウンドのところで一周してとらえた。


「おー!、まるで鎖が生きているかのように伸びて敵を拘束した!」


「あれは、私の出身地である東の果ての国、雲龍王国に住む神鉄竜(ミスリルドラゴン)の鱗から作られた鎖だ。神鉄竜の鱗で作られたものは、伸縮自裁でこの私の剣もその鱗から作られたものだ。」


「へー、ちなみに北越神技って言うのは何ですか?もしかして、イロハさんの国に北●神拳のようにそれを教えた師匠がいたりして・・・。」


「北●神拳?まあ、ともかくあれは我が国の言葉が珍しくて勝手に使っているだけだ。」


「あ、さいですか。」


ジャブ、まるで日本語が珍しくて仕方がない外国人だな。


「ギャインギャイン!!」


「鎖鎌を溶かそうと炎を吐くのは想定済みだ。だから、口をふさいで炎を吐けなくしてやったぜ!」


ヘルハウンドは、鎖鎌を溶かそうと体中から炎を放出した。


だが、水精霊の加護が付与された鎖鎌は煙が出るだけで一向に溶けない。


「おし!ジャブ、そいつをこっちに!!」


そう言いながらも俺は、襲ってきたモンスターたちをスキルで蹴散らしていた。


もちろん、ボルヴィキーニ領の兵士たちやその指揮者であるイロハも負けていない。


銃や剣で応戦し、敵を次々に倒していた。


「旦那!」


ジャブの合図で俺は頷くと、ミネーラを呼んだ。もちろん、俺のスキルでどんな攻撃も効かない状態で。


ミネーラは暴れるヘルハウンドを見つめ続けた。

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