第32話:スタンピード

「た、大変です!お屋形様!!」


「なんだ?ノックもせずに、君らしくない。」


「は!失礼しました。ですが、一大事ゆえ・・・。」


「まさか、スノーラビットの連中が脱走したのか?」


「いえ、スタンピードです!近くのダンジョンで、ディザスター級のスタンピードが発生し、こちらに向かってくるのとの報告がSランク冒険者から通信玉で・・・!」


「なん・・・だと・・・。ダンジョンの異変を調査していたのは、数十組のSランク冒険者だぞ!奴らはどうした!!」


「『助けてくれ!応援を頼む、化け物の大群だ畜生・・・。』この通信を最後に途絶、恐らく全滅したものかと・・・。」


オーエスは、冷汗を流したもののそれをぬぐって、己を奮い立たせた後に立ち上がった。


「すぐに兵士を集めよ!この屋敷だけでも守り切るのだ!!」


「仰せのままに。」


屋敷内が慌ただしくなり始めた。


「ハロルド君、もちろん手伝ってくれるね?」


「ハイ!」


俺はすぐに別室で控えていたジャブとチャールズ、ジェネルのもとへ向かった。


「お前ら、仕事だ!」


「おう!」


「ようやく、力を見せつけるときが来たようっすね!兄貴!!」


「やりましょう!」


士気は問題ないな。


外に出ると、イロハがディザスター級スタンピード発生の報を聞いて怯え切っている兵士たちを鼓舞していた。


「いいかお前たち、知っていると思うが今回のスタンピードはディザスター級だ!油断すればボルヴィック領は滅亡、否!消滅する。」


「・・・・・・。」


「死はどんな奴にも平等にやってくる!それが今、今なのだ!逃げ出すのは結構、咎めたりしない。実際、私も今すぐ逃げ出したいくらいだからな。」


兵士たちは、イロハの発言に笑った。少しばかり張りつめていた空気が和らいだ。


「運がよければ逃げた先で生き延びられるだろう。だが、そいつは一生仲間を裏切ったという重荷を背負って、結局訪れる死に怯えなければならない!」


「そうだ!そうだ!」


「ならば!戦う時は今なるぞ!!化け物共をこの世から駆逐するのだ!」


その一声とともに兵士たち全員の雄叫びが上がった。


・・・・・・・


城門の外でバリケードの設置を手伝っているときに声をかけてくる者がいた。


「ハロルド殿」


「イロハか。どうした?」


「その・・・先ほどはすまなかった。」


イロハは頭を下げた。


「え、な、何のことでしょう?」


「私は、君のことを知らなかったとはいえ宮廷魔導士のあなたを悪徳貴族だの無魔人などと罵った。この場で謝罪をさせてほしい。」


「そのくらい気にしませんって。」


「やはり、あなたは御屋形様の言う通りできたお方だ。ふつうは神に近い力や権力を持つものは、総じてその力におぼれてしまうのが普通だというのに・・・。」


この話ぶりからすると、前の宮廷魔導士がそうだったのかな。


「お、おぬしさえよければ・・・その、戦いの後で話がしたいのだが・・・。」


イロハはなぜかしどろもどろになって赤くなった。


「申し訳ない。俺には、領民の生活を豊かにするという大事な仕事もある。待っている仲間もいる。ただでさえ帰りが遅くなっているんだ。本当に申し訳ない。」


「そ、そうか・・・。」


イロハは、すごく寂しそうにうなだれた。かわいそうになって来たので何とかフォローを入れる。


「だ、だが!どこかで暇を作るから・・・その時にいろいろ話をしよう!!」


「ああ・・・。」


「来たぞー!魔獣の群れだ!!」

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