第31話:スライムクイーン

突然、みんなの前に現れた藍色を基調としたドレスがよく似合う美少女は、フッと笑って胸に手を当て自己紹介をした。


「わたくしはバルド王国の女王。イザベラ・バルドーと申しますわ。見てくれは人間ですけどわたくしは・・・。」


そう言って彼女は、いきなりその場で宙返りをした。


すると、彼女はピンク色の液体になり、それがスライムの形になった。


「スライムなんですの。」


「スライム?」


彼女は、もう一度宙返りをして先ほどの美少女に戻った。


「ただのスライムじゃありませんわ。わたくしはスライムの最上位種であるスライムクイーンなんですの。」


「ねえねえ、イザベラさん!どうやったら人になれるのですか?」


「まず、なりたい自分をイメージするのです。」


「なりたい自分をイメージ・・・。」


そう言いながらイザベラの胸を見つめた。


「ただし、体積が大きければ大きいほど維持するために消費する魔素は増えますわ。」


「・・・小さくても、我慢する。」


ドンマイ、小さくても俺は好きだぞ。


「イメージが決まったら、体内の魔素を一度中心に集めるイメージをしてから解き放つのですわ。」


しばらくすると、ソーニャの全身が光りだしそこから見えたシルエットは犬から人へと変化していった。


やがて光が収まり、銀髪ボブカットの美少女になったソーニャがそこに現れた。


ちなみに、耳としっぽは元のままである。


「ん?うえ?・・・やったー!ご主人様!ガリー!私、人間に変身できたのですー!」


その姿を見た俺はもちろん、イザベラ以外の全員が頬を染めた。なぜなら・・・。


「ソーニャ!わ、わかったから早く服を着なさい!!」「お姉ちゃん、はしたない。」


「私は一向にかまわん・・・のですっ!!」


「俺の目のやり場に困るんだよ!良いから早く服を着てきなさい!!」


ソーニャに馬車から持ってきた服を着せた後、イザベラに改めて質問をした。


どんな用事でここに来たのかを・・・。


「質問を質問で返すようで申し訳ありませんが、あなたたちこそどういった用件でここに来たのかしら?」


「俺がここの領地の通行券を貰おうと思いましてね。彼らはそのお供をしてもらっているんです。」


「なるほどね。・・・わたくしは塩を買いに来たんですの。ここの土地の塩はどこよりも上質な塩が取れますからね。」


「塩は商人から買えばいいじゃないですか?お供も連れずに危険じゃないですか?」


「お供なら、主殿のそばに・・・。」


どこからかダンディな声がしたかと思うと、煙が飛んできてイザベラのそばに着地して、それが徐々に犬の形になっていった。


「なんだあれは?」


「人狼種の中でも上位に位置するヴェアヴォルフなのです!ま、フェンリルよりも魔素量や扱う魔法の質は劣りますけど。」


「ふん、心臓に虫がくっついたぐらいでご主人にワンワン泣きついていた小娘が吠えるじゃないか。」


「んなっ!ううー。」


ソーニャは顔を赤くした。


「それに、フェンリルは煙になって物理攻撃を無効化できまい?」


ムッとした顔でガリーが食い下がった。


「そ、そんな逃げることに特化した負け犬が持ってそうな能力、フェンリルには必要ないのです!」


「言うじゃねえか小娘・・・。」


ソーニャとガリー、ヴェアヴォルフは、歯をむき出しにし、毛を逆立てて互いに威嚇しあった。


らちが明かないと思った俺は、ソーニャとガリーをなだめた。


「こら!ソーニャ、ガリー。初対面の人・・・狼?ともかく、失礼なことを言うもんじゃありません。」


「ご、ごめんなさいです。ご主人様。」「善処するのです。」


「佐一郎も、いい大人の癖に女の子の安い挑発に乗らないの。はしたないですわ。」


「すまん、マイマスター・・・面目ない。」


「あのー、サイチローさん・・・さっきはごめんなさい。」「ゴメンナサイ。」


「む・・・うむ、私も少し大人げなった。・・・すまない。」


「話を戻しましょうイザベラさん。」


「そうね、実を言うと塩を買いに来たのはついでですわ。」


「ついで、ですか。」


「本当の目的は、これから近くにある複数のダンジョンで、ほぼ同時に起こるであろうデスマーチ級スタンピードに対処するために、わたくしがここの領主様に呼ばれたんですの。」

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