第30話:解呪
まず、ソーニャの体を暖めるための毛布を伯爵様に用意してもらい、次にソーニャの周りに空気の膜を二重に作り外や内から出入りできなくした。
そして、ソーニャの周りの空気分子の動きを少しずつ鈍らせていく。
しばらく、平気な顔をしていたソーニャだったが体が徐々に震え始めた。
「さ、寒いのですー。」
「我慢しろソーニャ、ここからが頑張りどころだ。」
心が少し痛むが、ソーニャのためだ。俺はさらに膜の内側の温度を下げていく。
「ガチガチガチガチ・・・・。」
ここからも聞こえるほど、歯をガタガタ言わせ始めた。多分だが、ソーニャが今いるところは前世の温度単位でいうと-70℃ぐらいだろう。膜に空気の水分がへばりついていて中が見えない。
「ソーニャ、無理そうだったら言ってくれ!」
「だ、大丈夫なのです。このくらいの寒さ、どうってことないのですすすす。」
「ソーニャさん!」
「お姉ちゃん!がんばれー!!」
「が、頑張ってくださいー!」
「もう少しだ。ここが頑張りどころだぞ!ソーニャ!」
「は・・・い・・・うっ!ううううっ!!」
突然ソーニャが苦しみだしたようだ。
「ソーニャ?!どうした!?」
「き、気持ち悪いのです。何かが胸のあたりから這い上がってくるのです・・・。」
「恐らく、虫が寒さに耐えかねて外に出ようとしているのですわ。」
「がんばれ!ソーニャ、その何かを吐き出せば呪いは解けるはずだ!!」
「うぐ、う・・・グゲー!!!」
何かを吐き出す音が聞こえてきたので、俺はすぐさまスキルを解除した。
見ると、嗚咽が止まらないソーニャのそばで何か黒いものがうごめいていた。
「マジック・バグだ!」
「ソーニャさん!!」
モーナが即座に寒さで動けなくなったソーニャを毛布でくるんでその場を離れた。
だが、マジック・バグは、再びソーニャに取りつかんと体を霧状にした。
「させん!」
俺は、霧状になったマジック・バグを空気の膜に閉じ込めた。
「捕まえた!だが、これからどうしようか・・・。こいつは魔素の塊、実体はあってないようなものだしな。」
「ハロルドさん、わたしに任せてください。」
「ミネーラ、いくらニャンニャンをテイムできたお前とて、使役が難しいマジック・バグを・・・しかも、誰かがすでにテイムしている個体だぞ?」
「できるのか?」
「やってみせます。」
俺と伯爵様は心配そうにお互いを見つめあった。そして頷いた。
「・・・・頼んだぞ。」
「危なくなったら、離れるんだぞ!」
ミネーラは無言で頷き、また目を紫色に光らせた。
彼女の額には脂汗がにじみ出てきた。
10分ぐらいたっただろうか、暴れまわっていたマジック・バグは急におとなしくなった。
「ふう・・・成功です。」
その声を聞いたとたん、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「さすがは我が娘だ!」
伯爵様は娘を力いっぱい抱きしめた。
「お父様・・・。」
「わーい!呪いを解いてくれてありがとうなのですご主人様!」
ソーニャが俺に抱き着いてきた。
「よかったな!ソーニャ。」
「うん!!」
ソーニャはよほどうれしかったのか、しっぽをぶんぶん振り回して俺の顔をなめた。
「良かったね!お姉ちゃん!」
「応援してくれてありがとう。ガリー。」
「えへへ・・・。」
「そうだ!ソーニャさん、人型に変身できますか?」
「うーん、やり方がわからないのです。」
「私が教えましょう。」
そう言ってやってきたのは、藍色を基調としたドレスがよく似合う、ピンク色の長髪で整った顔立ちの美少女だった。
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