第29話:呪いの虫

「呪いか・・・。メーテル!」


「はい、旦那様。あの本でございますね。本当に彼に返してもよろしいので?」


「構わん。彼ならば悪用される心配はなかろう。」


「?」


「かしこまりました。」


メーテルは、一礼すると部屋から出ていった。


「あの本とは?」


「知らんのか?・・・マホウスキー家の呪いのせいでこの土地の守り神リヴァイアサンが暴走したのも、その修繕費の代わりとして妻が無理やり慰み者にされた挙句に殺されたのも?!知らんと申すか!!」


「お父様!」


「あ、う・・・すまん。君もあの家族の被害者だったな。妻を奪われた怒りで君に強くあたってしまった。」


「気にしなくていいですよ。もしや、数年ほど前に暗殺者を向けたのは・・・。」


伯爵様は静かに頷いた。


「そうでしたか・・・。」


しばらくして、メーテルが13冊の本を重そうに抱えながら部屋に入って来た。


「お持ちしました。旦那様。」


「何度もすまんな。」


「いえ、旦那様に拾っていただいたこの命、果てるまであなた様に尽くすつもりですから。」


先ほどとは打って変わって嬉しそうに伯爵様は頷いた。


そう、この国は魔法至上主義であると同時に人間至上主義でもある。


フレーが、常にフード付きのローブを着ているのも単なるファッションではなく、亜人を快く思わない者たちの目をそらすためでもある。


「ハロルド君、これが君たちの家から盗んだものだ。」


「魔法大全集・・・。」


「その中の13巻目は、呪いの魔法に関する記述がある。本来、呪いは闇魔法に分類される。この国では、禁じられていることは知っているだろう?」


「ええ。」


俺は、13巻目を手に取ってソーニャの呪いと似たようなものがないか探していた。


「ご主人様、お姉ちゃんの呪い、書いてあるですか?」


「ああ、あった!対象物に取りつくと心臓の中でうごめき、魔素を吸い続けてスキルや魔法を使えなくさせる魔物『マジック・バグ』!こいつが、ソーニャに取りついていたのか・・・。」


「む、虫ッ!!!」


虫と聞いて女性陣は悲鳴を上げた。ソーニャに関しては、取りつかれている張本人のため、半狂乱で暴れまわった。


「とってー!虫、取ってよーご主人様ぁぁああー!!」


「わ、わかったくっつくな!鼻水をくっつけるな!!何とかするから!」


「ホント!?」


「虫は寒さに弱い、たぶん俺の能力でソーニャの体から追い出すことができるはずだ。だが、そのためには君ごと冷やすしか方法がない。」


「ふえ?」


俺は、ソーニャを外へ連れ出した。伯爵家の人たちが総出で見守っている・・・失敗はできない。


「ご主人様、本当にこれで虫、出ていくのですか?」


「ああ、だから。少しばかり寒さを我慢できるか?」


「・・・うん!する!我慢します!!」


「ソーニャさん。」


「お姉ちゃん・・・。」


「モーナさん、ガリー、大丈夫なのです。ご主人様は、絶対に私を殺しません。」


「はい!」「うん!」


「・・・じゃあ、行くぞ。」

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