第25話:ボルヴィキーニ伯爵の娘
なんだか、よくわからないが確執のせいで領の前で足止めを喰らっていたものの、ジャラからもらった名刺を見せたら、あっさりと入れてくれた。
屋敷に着くと、中庭でしくしくと泣く縦ロールの金髪美少女と、それをなだめる山羊の角を頭に生やした執事がいた。
少女は、裾にレースがある水色のドレスを着ていて、持ち前の美貌でその美しさが際立っていた。
「あのー、どうかしましたか?」
二人は俺たちを見たとたんに腰を抜かした。
無理もない。敵対していた男爵家の紋様がある馬車の周りに、悪名高い盗賊団がいるんだ。
警戒するなと言われたら俺でも無理だ。
「お、お嬢様!早くお下がりを・・・門の兵士は何をやっていたんだ!まさか、全員・・・。」
「大丈夫です。彼らは全員健在ですし、こいつらは命令をしない限り、この領地の物を盗んだりしませんよ。」
「何?では、やはり伯爵様の娘を盗みに!!衛兵、衛兵!!!」
あっという間に、先ほどの何倍もの数の兵士が現れた。
しかも彼らが持っているのは、ありふれた異世界にありがちな剣や魔法の杖ではなく、ライフリングが施された拳銃だった。
「この世界は拳銃まであるのか。」
銃を持った兵士の後ろで執事は不敵に笑った。
「ふっふっふ・・・。覚悟しろ盗人男爵め、この銃とやらが火を噴けば貴様とその仲間はハチの巣姿であの世行だ!!さすがにいつまでも黙って奪われるわけにはいかんのだよ。」
「・・・・・。」
「撃て!!」
執事の声を合図に兵士たちは一斉に銃を放った。
だが、もちろん俺はなるべく厚くした空気の壁を作ってそれを全部跳ね返した。
「バカな!?レベル5の防御魔法でも防げないライフリングが施された銃だぞ?!」
「安心しろ、俺は先代のように盗みに来たわけじゃない。この土地の通行許可証が欲しいだけだ。」
「し、信用できるか!!」
「では、証拠を見せてやろう。」
「くっ、打ち方やめ!やめぇ!」
執事が合図を送ると銃声は収まった。
「妙な真似をしたら、ただじゃおかんぞ。」
俺は身構える執事に例の名刺を見せた。
「こ、こいつは亜神ススム様が造りし物の一つ、『彩光之羊用紙(キラキラカード)』で作られたジャラ様の名刺だ!」
うすうす気づいていたけど、やっぱそういう名前だったか・・・。
それを聞くや否や、兵士たちは一斉に銃をしまって俺に跪いた。
「ああ、ご無礼をお許しください。」
「じいや・・・。」
「安心なさいお嬢様、このお方はジャラ様から信用を得たよきお方です。」
よほど信頼されているんだな。あの人。
「では、では・・・ハロルド様。折り入って、お願いが・・・ありまず。」
少女は涙で目を腫らしながら俺に近づいてきた。
「なんでしょう?お嬢様。」
俺は彼女と目線が合うようにしゃがんだ。
「私・・・ニャンニャン・・・してください。」
私とニャンニャンしてくださいー?!
まて!探し物ってあれか?ひょっとして大人の階段か?大人の階段なのか!!
「お嬢様、もっとはっきり言わないとわかりませんぞ。」
「ご、ごめんなさい。ハロルド様、ウチの猫を、ニャンニャンを・・・探してください!」
「あー、愛猫の方でしたか。」
「愛猫の方とは?」
「ごめんなさい。何でもないです。」
ジェネルは、ニヤニヤしながら俺に耳打ちした。
「ニャンニャンで反応するとは、ハロルドさんも古い感性をお持ちで。」
「だまらっしゃい!」
あーもー、今日は暑いなー!!
「必ず見つけてください。あの子に何かあったら、わたし・・・わたし・・・。」
「心配いりません。私が必ず探して見せます。」
「ありがとうございます!あ、自己紹介がまだでしたね。」
そう言って少女はスカートの裾を両手でつまんでお辞儀をした。
「私は、ボルヴィキーニ伯爵が娘、ミネーラ・ルヴァイア・ボルヴィキーニです。こちらは、私の専属執事、両足羊のメーテルです。」
メーテルと呼ばれた執事もお辞儀をした。
メーテルって某銀河鉄道アニメの女性キャラやん。
「あの、ハロルド様?」
やべ!失礼なことを考えていた。
「こ、これはご丁寧にどうも・・・私は、マホウスキー男爵家当主。ハロルド・レオン・マホウスキーです。よろしくお願いします!!」
ミネーラは、可愛らしい笑顔で会釈した。
「はい、よろしくお願いします!」
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