第23話:リーフ草原⑤

アーマードベアを倒したものの、途中で出会った冒険者たちが先ほどよりも、一回り大きなアーマードベアを3体も引き連れてきてしまったようだ。


「ちっ、仕方ねえ・・・お前ら、早くこっち来い!」


俺はそう言いながらも、彼らを空気の膜で包んだ。


「な、なんだ?」


「これで大抵の攻撃は防げるはずだ。」


「ぐわああおおおお!!!」


アーマードベアは、咆哮を上げて3体同時に突進してきた。


俺は、空気の刃を飛ばした。


「な!馬鹿な、彼は魔法が使えないはずじゃ。」


「でも、これで助かったわ。」


だが、鎧が光ったと思うと空気の刃がはじかれた。


「だめだ。さっきは攻撃が通ったのに・・・。」


だが、どうやら今の攻撃でひるんだようだ。


すると、先ほど助けた女商人がやって来た。


「あれは、アーマードベアの上位種キングアーマードベアだ。奴は鎧にレベル5の防御魔法を付与して攻撃を防ぐことができるぞ。」


「というか、ここってスライムとゴブリンしか生息できない草原って聞いたんだけど!」


「こんな化け物がいるなんて聞いてないわよ!!」


女アーチャーと聖女はあまりの出来事に悪態をついた。


だが、リーダーは勇敢にも剣を構えてキングアーマードベアと対峙した。


「うるせえ、まずは倒すのが先決だろ!」


「倒す方法はあるの?」


「凍らせることができればおそらくは・・・。」


それを聞いた俺は、水で凍らせて切ることを思いついた。


だが、ここに水なんてあるわけがない・・・詰んだ。


グオオオオオー!!


その時、咆哮に驚いたのか草むらから3匹の水色のスライムが飛び出した。


「お、水スライムだ。」


「水・・・これだ!水スライム、お前に恨みはねえがその命使わせてもらうぜ!」


キュ?


俺は、水スライムたちをつかむとキングアーマードベアに思いっきり投げつけた。


「ぶうぉ?!」「があっ!」「ごぼぉ!!」


風で微調整したおかげで見事顔にクリーンヒット、スライムたちはぶつかった衝撃で核が壊れたのか、形が崩れた。


「よし、君たちの犠牲は無駄にしないぜ!!喰らえ熊公!」


そう言って俺は、両手を突き出した。そして、三匹の熊をスキルで空気の玉に閉じ込めて、そこの空気分子の動きを鈍らせて玉の温度を急激に下げた。


3匹の熊はしばらく暴れていたが、徐々に動きが鈍っていき、最終的には氷漬けになった。


「な、なによあれ?!彼、一体何をしたの?」


「信じられん。防御魔法を俺たちにかけたうえに、発動が難しいレベル5の水属性魔法『エターナルフォースブリザード』を使いやがった。」


「エターナルフォースブリザード?」


おい、どっかで聞いたぞその魔法!


「ああ、一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる。相手は死ぬ。」


うわー、こいつ惜しげもなく例の解説そのまんま言いやがったよ!!


そう思いながらも俺は、3体のキングアーマードベアをスキルで木っ端みじんにした。


奴らのむき出しになった心臓が止まると同時に、全員から安堵の表情が見えた。


「た、助かった。」


「さすがは兄貴の恩人でさぁ。魔獣殺しの異名を持つ俺でも、恐怖で動けなかったというのに・・・。」


「ハロルド様、助けていただき感謝いたします。」


「いえいえ・・・お気になさらず。・・・あなたは?」


「失礼、私は法国でビットル商会の会長を務めている。ジャラ・フェニー・ビットルというものだ。」


彼女はご丁寧に名刺を出してきた。


「あ、こりゃどうも・・・。この近くの領地を治めています。ハロルド・レオン・マホウスキー男爵と申します。」


「え?!あのビットル商会の会長さん!!」


「姿をこの目で見たのは初めてだぜ。」


「お前ら知ってるのか?」


「あなたこそ知らないんですか?!このお方は、王国で5本の指に入る大富豪ですよ!?」


「えー!・・・しらん。」


冒険者たちは、全員ずっこけた。


「そういえば、貴族出身なのに貴族同士の舞踏会や私の誕生会にも出席していなかったな。知らないのも無理ないか。」


「はい、すみません。そういった催しには連れて行ってもらえなかったもので。」


「はあ・・・キングアーマードベアを倒した優秀な魔法使いであり、かつ家督を継げるはずの長男なのにそこまで優遇されないとは・・・それじゃあ、ハロルド君以外追放されても奴らは文句を言う資格などないな。」


「全くです。」


「あの、ハロルドさん・・・いや、様!無魔人なんて言って悪かった。この通りだ!!」


リーダーは俺に向かって土下座した。


「頭を上げてくれ。お前たちは、俺のことをあまり知らなかっただけのことだ。」


「なんと寛大なお言葉!あのマホウスキー家の長男とは思えません。」


よっぽど悪名高い家なのだなウチは・・・。


「当たり前です。ハロルド様は、ほかのマホウスキー家の人たちと違って味方になる者にはとことんお優しいのです。」


モーナは、なぜか頬を赤らめてふんぞり返った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る