第20話:リーフ草原②

「いやー、私を置いて消えないでハロルド様ー!!」


モーナは、頭を抱えてうろたえていた。


「落ち着けお前ら。俺は消えてねえよ。」


だが、全員見失ったのかきょろきょろしている。


「こ、声はするけど姿が見えねえ。」


「臭いも消えているのです!」


「俺の勘かもしれないが、ユニークスキルが反応して新しいユニークスキルが生まれたのかも。」


「なるほど、たしかに確率は限りなく低いですが何かのきっかけで別のユニークスキルが開花するという事例も聞いたことがあります。」


「すると、旦那はユニークスキル『隠密(ミメシス)』を習得したってことか?ジェネル。」


「そう言うことになりますね。」


「そうか・・・・安心しろモーナ、ソーニャ。俺は消えていない。ちゃんとここにいるぞ。」


「そうでしたか・・・よかったですー。」


「びっくりしたのです。でも、ご主人様すごいのです!!」


「でも、この姿じゃ誰も服を買いに行けませんよ。」


「大丈夫、俺に任せろ!」


「ハロルド様、お言葉ですがあなたの場合服どころか姿も消えているのですよ。」


「俺にいい案がある。」


・・・・・・


俺はしがない商人、今日も冒険者から服一式や防具を売りさばいてがっぽり儲けるとするか。


「あの、すいません。」


お、来た!カモが、笑顔で優しく接客すればどんな奴でも警戒心を解いて買ってくれる。


「ハイ、いらっしゃい。何をお探しですかい?」


だが、客の姿はどこにも見当たらない。


「あれ?お客さん。どこにいるんです?」


「あなたの目の前にいるわ。私は子供にしか見えない妖精さん。だから、大人のあなたには姿が見えないの。」


「なるほど、にしては随分と声が枯れた妖精さんですな。」


「う、歌の練習が楽しくて夜通しで歌ってしまってね。」


「はっはっは!まあ、いいや。妖精さん、何をお探しですかい?」


「男物一式4人分と女物一式1人分ですわ。」


「まいど!合計8100Gですね。」


すると、突然目の前に生まれたままの姿の男が金貨袋を握り締めたまま現れた。


俺は思わず叫んだ。


「変態だー!!」


「何言ってるのよ。私は可愛らしい妖精よ。」


「嘘つけ!そんな可愛らしい物をつけたやつが妖精なわけがねえ!!自分の姿を鏡で見てみろ!!」


俺が鏡を取って男に見せると、男は慌てた様子で金貨をばら撒き、服をひったくって一目散に逃げていった。


「あ、あんな奴を相手にしなきゃなんねえなんて・・・もう、商人やめようかな。」


・・・・・・・・


「おかえりなさい。・・・大丈夫ですか?ハロルド様。」


「大丈夫じゃねえよー、もうあんな恥ずかしいことはごめんだぜ。」


「ユニークスキル『隠密(ミメシス)』は、消えたいと思う気持ちに反応して消えます。その気持ちが消えるとその効果も消えるんです。」


「そうか・・・今度から気を付けよう。あと、ジャブ!チャールズ!笑わない!」


「す、すまねえ旦那。」「許して・・・ブフォ!下せえ・・・。」


俺は一応、動きやすい女性ものとしてフリルのついた長袖シャツとズボン、下着を二人分持ってきた。


そして、俺たちはその場で服を着た。


「好み聞いてなかったから、適当に見繕ってきた。すまんな二人とも。」


「とんでもございません。ハロルドさんさえよければ、隠せるところだけ隠せれれば・・・。」


「も、モーナ・・・それはまだちょっと早いんじゃ。」


すると、ジャブが肩を組んで茶化しに来た。


「旦那も隅に置けませんなー。こんなかわいい娘を虜にしちまうなんてよー。」


「からかうんじゃねえ!」


「でも、どうしましょう。地図がないんじゃ、ボルヴィック領にたどり着けませんよ。」


「うーん、まいったな。」


「心配いりませんぜハロルドの旦那、獲物を盗むために使っている魔道具(マジックアイテム)を応用すればこんなだだっ広いだけの草原なんて、あっという間に抜け出せますぜ!」


そう言って、ジャブはあるものを取りだした。


「コンパス?」


「ただのコンパスじゃねえですぜ。こいつは、目的地を言うだけでその場所を赤い針が指し示す『オブジェクトナビゲーター』でさぁ。」


「こいつは、世界にも数個しかない特級魔道具(スペシャルクラス・マジックアイテム)っす。その昔、創造神の使徒である亜神ススム・ヤクモが冒険者の時に、仲間に騙されてダンジョンの底まで落とされたときにそのダンジョンにある魔鉱石で作ったのが始まりらしいっす。」


「よく持ってたな、そんなの。」


「旦那ー。俺たちを誰だと思ってるんすかー。」


「そうだったな。で、どう使うんだ?」


「こうやって手をかざして、目的地を言えばいいんだ。」


ジャブは右手をオブジェクトナビゲーターにかざすと無機質な女性の声が流れてきた。


「モクテキチヲ、ドウゾ。」


「ボルヴィック伯爵家の屋敷。」


ジャブが話しかけるとピピっという音ともに針がぐるぐると回り始めた。


「これで、赤い針が指し示す方向に行けばボルヴィック伯爵家の屋敷に着くってわけでさぁ。」


「はぇー、すっごい。」


だが、しばらくして・・・。


「ぴ、ピピ・・・ガガガ、モクテキチヲおおヲー、は、ハッケンんんんー、シマシタあぁ~。」


乱れた機械音声が流れたかと思うと、針がやたらめったらに動き始めて止まらなくなった。


「あれ?・・・っかしーな。」


「壊れたんじゃねーのか?それか、偽物とか。」


「そんなはずはねーっす。こいつには自己修復機能があるから滅多に壊れないんっすよ。壊れるとしたら、それは魔素が濃い魔物の巣窟とか、瘴気が漂う危険地帯ぐらいっす。」


「でも、ここは雑魚モンスターしか生息できない魔素の薄い平原だ。壊れるなんてありえないはずだぞ?」


「そうなんっすよ。こんなところで針が狂ったのは、何か理由があるはずっす。」


「それに、贋作を作ろうにも仕組みが複雑すぎてね。仲間に手先が器用なドワーフもいるんだが、そいつが『これは無理だ!作った本人しか作れん!』って音を上げるほどなんでさぁ。」


「まじか・・・。いずれにしろ、道を知っていそうな連中を見つけないとなー。」


「ご主人様、あそこに冒険者いるですよ。」


ソーニャの目線の先には、剣や魔法の杖を装備したいかにも冒険者らしい恰好をした4人組がうろついていた。

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