第19話:リーフ草原

捕まえた盗賊が情報を吐こうとした矢先に急に苦しみだした。


「あが、た・・・たすけ・・・て。」


盗賊は泡を吹きながら息絶えた。


そして残りの盗賊も同じように苦しみながら息絶えた。


「いったい何が起きたんだ・・・。」


「これで情報は聞けずじまいっすね。」


「仕方ない。予定通り、ボルヴィキーニ領に行くぞ。そこで何か解るかもしれない。」


全員が頷いた。


・・・・・・


領地を出て、数日程馬車を進めると草原が見えてきた。


「少し暖かくなってきたな。」


そう言いながら俺は、上着を脱いで馬車の後ろについているトランクにしまった。


「はい、この間までの寒さが嘘のようです。とは言ってもまだ少し肌寒いですけど。」


モーナもそう言いながら、俺に倣って脱いだ上着をトランクにしまった。


「ここは法国直轄領にあるリーフ草原です。ここらへんは、駆け出しの冒険者にはうってつけの狩場ですよ。」


いつの間にか茶髪童顔のジェネルになっていた直志が話しかけてきた。


「なぜだ?」


「ここら辺は魔素量が少ないせいで、そこまで魔素を必要としねえゴブリンやスライムなどの雑魚モンスターしか生息してねえんでさぁ。」


「なるほどね。」


「あの・・・。」


「ん?どうした。ガリー。」


「その、ここからどうやってボルヴィキーニ伯爵領、いくですか?道が途切れてるですよ。」


「ホントだ。道が途中で草に埋もれている。」


「それは、基本的にこの道を使う人が商人のガンサクしかいなかったからなんです。」


「なるほど、奴だったら長年の勘でどっちへ行くべきかわかるから、一人しか使わない道は整備されなかったわけか。」


「ハロルドの旦那、地図は持ってねえんですかい?」


「ああ、持ってるぜ。確かトランクに・・・ってあああ!!」


トランクにいくつものスライムが群がって、どうやって開けたのかトランクをこじ開けて中の物を食べていたところだった。


最悪なことに地図はすでに消化されかけて切れ端しか残っていなかった。


「気負つけてくだせえよ旦那、スライムは魔法で施錠してないトランクなんて体を使って器用に開けちまうんだから。」


「それを先に言えー!」


俺は慌てて、モーナと俺で荷物を守るために必死に手で追い払った。


「いや、常識っすよね。貴族なのにそんなことも知らなかったんすか?」


ソーニャとガリーがワンワン吠えたおかげでようやくスライムが一匹残らず逃げていった。


「ぐうの音も出ねぇ・・・。」


「ハロルド様はこの年になられるまでほぼ、幽閉に近い環境に置かれていたんです。少し多めに見てあげてください。」


「そ、そうだったのか。済まねえ・・・。」


「おれっちも発言に配慮が足りてなかったっす。く、首だけは勘弁して下せえ!」


「いや、いいんだ。分かってくれれば。モーナもありがとう。」


「旦那!」「ホントにお優しいお方っす!」「当然です!ハロルド様は歴代の領主様とは違うんですよ!もっと敬いなさい!!」


「「ハハーッ!!」」


「やめてくれ、俺はそこまで偉い人じゃないって・・・。そ、それよりモーナ、服は大丈夫だったか?」


「ええ、ほらこの通り!」


モーナはフード付きのコートを着てくるりと回って見せた。


「ほら可笑しいところはないでしょ?」


「いや、そのー・・・言いずらいんだが。お前、そんなに胸あったか?」


モーナは、せいぜいAと言ったところだが今のモーナはDぐらいある。着ぶくれにしては明らかにおかしい。


「もー!いくらハロルド様でも怒りますよ!!」


「というか嬢ちゃんの服、溶けてますぜ。」


「ふぇ?!」


モーナの胸のあたりから穴がだんだんと広がっていき、少し大きめの水色のスライム二匹が顔を出した。


「いやあああああ!!」


モーナは慌てて服を脱ぎ捨てたがそれがいけなかった。


この世界でも、服だけを溶かすことで有名なスライムの体液がこちらにも飛び散ったのだ。


「うわあああ!俺の服が溶けていくぅううう!!」


「兄貴ぃ!どこに需要あるんすかこれええ!」


「俺が知るかぁ!!」


「私もそう思いますー!」


「男の服溶けシーンなんてアリエナイワー!!」


「いやーん!」


元から何も着ていなかったソーニャを除いて、最終的に全員あられもない姿になってしまった。


「あの・・・みなさん。大丈夫ですか?」


俺を含めて全員絶望に打ちひしがれていた。


「ごめんなさい皆さん。私のせいで・・・。」


「お姉ちゃん、寒いよー。」


「スライムに侵される女の気持ちがよく分かったぜ。」


「兄貴・・・どうしましょ。こんなんじゃほかの連中になめられますぜ。」


「ひ、久しぶりすぎるこの感覚・・・。」


「ソーニャ、お前はいいよな。元からあられもない姿で・・・。」


「ご主人様!心配したのに変なこと言わないでほしいのです!」


だが、そこに運よく服を売っている商人を見つけた。


「なんという幸運!なんというご都合展開!」


俺は心底喜んだ。


「でも、どうしましょうハロルド様、私たち服を買う服もないのですよ。」


「あー!恥ずかしい。透明になって消えてしまいたい・・・。」


そうつぶやくと、途端に周りの顔がみるみる青くなっていった。


「は、ハロルドさんの体が!」


「消えていく!?どうなってんだこりゃ!!」

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