第12話:専属の商人

応接室へ行くと、そこにいたのは小太りで平たい顔をした初老男性だった。


「初めましてですかな、現当主ハロルド様。」


「あなたは?」


「失礼、私は商人のガンサク・ツー・ハーンと申します。先々代様からの契約で一カ月に一度、良質な塩や肉、野菜類、衣類などを送らせていただくことになっております。どうぞお納めください。」


そういってガンサクは、瓶に詰めた塩を5本ほど取り出してテーブルに置いた。


「今日は塩の日か、いくらだい。」


「ハイ、1本1万Gですから、しめて5万Gですな。」


黒パン一斤が大体10Gで庶民の一日の食費が約100Gであることを考えると、塩がいかに高額か現代日本で生きてきた俺でもいやというほどわかる。


それぐらいこの世界でも塩は貴重なのだ。


「わかった。フレー金庫から金を・・・。」


「お待ちください。ハロルド様。」


「どうしたフレー?」


フレーはいきなりガンサクを指さした。


「ガンサク、あなたの持っている塩。それ、ボルヴィキーニ伯爵領にある砂浜から取って来たただの白い砂でしょ!」


「な、なんだって?!」


ガンサクは、にこやかな顔から青筋を立てた怒り顔に表情を変えて机を叩いた。


「言いがかりにもほどがあるぞ!亜人(デミヒューマン)の癖に自分の主人と商人との取引に口出しするな!」


「ぐっ・・・。」


フレーは苦虫を嚙み潰したような表情で後ずさりした。


ガンサクは、俺に向き直るとにこやかな顔に表情を戻した。


「申し訳ないハロルド様、自分の商品にケチをつけられるのが嫌でしょうがない性分でしてね。さあ、取引を続けましょうか?」


「いや、取引はやめだ。」


「な!なぜです!!部下の愚考に従うというのですか!?」


「フレーは鑑定のスキルを持っているんだ。」


「・・・そいつが、金を惜しんで嘘をついている場合もありますぞ!」


「取引をやめる理由は二つ。一つは大切な部下であるフレーの言葉は信用できること、もう一つはその部下を侮辱したことだ。」


「は、ハロルド様。」


フレーの涙声が俺の怒りをより一層引き立たせる。


「悪いがお引き取り願おう。さもなくば・・・。」


俺はテーブルの真横に立ち、真空の刃を右手から発射してきれいに並べられた瓶をすべて横に真っ二つに割った。


「ひいっ!」


「貴様の首がこうなる。分かったらさっさと出ていけ!」


「き、きっと後悔することになるぞ!!」


ガンサクはそう悪態をつきながら慌てた様子で部屋を出ていった。


「あり、がとうございます。」


俺は懐からハンカチを渡した。


「フレー、もしかして奴はずっとただの白い砂を運んでいたのか?」


フレーはハンカチで涙をぬぐった。


「いえ、先代領主の時は普通に塩を運んでいました。」


フレーは目を赤くはらしながらも俺にハンカチを返す。


「とすると、奴が懇意にしていたのは俺ではなく先代の方だったというわけか・・・。」


「ハイ。」


「こうなったら別の商人を招き入れて食料を手に入れるしかないな。」

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