第11話:マホウスキー男爵家の現状
メイドのモーナは鼻をすすり、涙をぬぐうと可愛らしい笑顔を俺に向けた。
「落ち着いたかい?」
「ハイ。見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした。」
俺はほっと胸をなでおろし、紅茶に口をつけた。
すっかり冷えてしまっていたが、美味しかったのでそのまま飲んだ。
「あのー、もう冷めてしまったと思いますので取り替えましょうか?」
「ん?ああ、大丈夫。君が入れてくれた紅茶は冷めていても美味しいから問題ないよ。」
「あ、ありがとうございます。」
モーナは顔を赤らめながらお辞儀した。
「モーナ、私たちはこれから重要なお話がありますので。」
「むう、ご主人様・・・お腹すいたのですー。」
眠そうな声をあげながらソーニャはゆっくりと立ち上がった。
「あー、すまない。起こしてしまったか。モーナ、ソーニャに食事を・・・。」
「メニューはどうしますか?ソーニャ様。」
「んーとね。肉!肉料理だったらなんでもいいよ!」
「かしこまりました。では、行きましょうかソーニャさん。」
「ワン!」
「では、失礼します。」
モーナは一礼すると、ワゴンカートを押しながらソーニャと一緒に部屋から出ていった。
俺は、紅茶をまた一口飲むと両脇に積んである書類に目を通した。
「住民からの依頼がこんなにあるとは・・・。」
「ハイ、私が先代領主に渡す予定だった、領民に聞いた要望をまとめた書類です。」
「えーと、裏路地の修理、冒険者ギルドへの支援金増額、配給制度の復活、通行税の減税・・・キリがねえ。これを全部ほったらかしていたってことか。」
「ハイ。」
「どれもこれも身を削れば不可能ではないはずなのに・・・・。」
「お優しいのですね。」
「ん?そうでもないさ。連中が厳しすぎただけだよ。」
俺は、要望の中に『共同賃金制度の撤廃』というものを見つけた。
「フレー、この共同賃金制度ってのはなんだ?」
「それは、先代領主が決めた法律で彼曰くみんな同じ賃金で働かせて貧富の差をなくすためだと・・・。」
「でも、実際自分たちは結構裕福な暮らしをしていたと思うし、この法律があると賃金をより多くもらうために頑張る人が現れないから優秀な人材が育たない・・・なるほど、これは反乱を起こさないための法律でもあるな。」
「どうしてそう言えるのです?」
「ほら、優秀な人が育てばそれだけ今の現状に疑問を抱いて反乱を起こす知識人が増えるからさ。この法律があれば、そいつらを端から生まれなくさせることができるんだよ。」
フレーは驚いた顔をしていた。
「どうした?」
「私の助言なしでよくわかりましたね!ハロルド様はすごいです。」
「普通だろ?大体にしてすごいのは先代領主だ。自分の利益のためとはいえ、これを助言なしで発案できるのだから。悔しいがこれは賞賛してしかるべきだ。できればその頭を別のことに使ってほしかったけどな・・・。」
驚きと尊敬のまなざしで俺を見るフレーをよそに、俺はある結論にたどり着いた。
「まずは、領民の食生活の改善からだな。」
その時、書斎の扉を叩く音がした。
「だれだ?」
「メイドAです。お客様が応接室までお見えになられております。」
声の主はモーナよりも少しハリのある女性の声だった。
「わかった。今行くと伝えておいてくれ。」
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