くたばれクソやろーですわ?
第5ターン終了まで、残り40秒――
たとえ今から敵チームが最短コースを通って爆破地点へ向かったとしても、もう間に合わない。これで守備側である拓也の勝利はすでに確定した。あとは彼自身がその勝利をどう捉えるかの問題である。
拓也はスウーっと大きく息を吸いこんで、
「タイマン勝負をしてーのなら、はじめからそう言えってーの! イセキのバーカ!」
マイクに向けて声を上げながら、射撃キーを押した。
超至近距離からのライフル銃の弾は、スチール製のドアを木っ端みじんに吹き飛ばす。
中にいる敵は混乱しているはず。そのすきに、双眼のゴーグル男の大きな体を室内へと滑り込ませた。
「――ッ!?」
何かが目の前に急接近し、彼は反射的にそれを撃つ。
至近距離から放たれた弾丸はその物体の中心に当たるが、それは破壊はおろか凹みもつけることなく天井に向かって弾け飛んだ
感覚的には発泡スチロールのような軽い物体のように感じた。
その正体が、アタッシュケースだと気付くまでにはほんの少しの時間を要させる。
『ブートキャンプ・OSG』ではゲーム性を維持するために、アタッシュケースを非破壊アイテムに設定されている。
だから銃弾の持つエネルギーが過剰なまでに強く作用しているように見えるのである。
拓也は周囲の状況の把握が遅れていた。
「そこかーっ!?」
直感を頼りにして振り向くと、今まさに女兵士がマシンガンを構えて引金を引こうとしている瞬間だった。
しかしそのエイムは明らかに外れている。
「やれる!」と拓也は直感的に思った。
相手が撃ってくる前に、女兵士の眉間へエイムを合わせていく。
『これでゲームセットだ』
突然聞こえた男の声にあわてる拓也の頭脳は、反射的に声の方向を探知しようと試みる。
それが音声チャット通話だと気づく寸前、彼の後ろでアタッシュケースが床に落下する音がした。
振り向きざまにエイムを合わせようとしたが、床からバウンドしたアタッシュケースが視線を遮っていた。
「チッ!」
横移動して射線をつくろうとするも、アタッシュケースの向こう側には誰もいない。
「はっ?」
混乱する彼の耳元で、
『『くたばれクソやろー(ですわ)!!』』
イセキと沙羅からの音声チャット。
同時に二方向から射撃された。
画面が赤く染まり、ぐらっと斜めにずれ、床面から見上げる画角になる。
ポーズを決めた女兵士の足元で、体長わずか80cmの耳の大きな妖精のキャラが、ショットガンを頭上でクルクルと回してポーズをとった。
画面は観戦モードに切り替わり、拠点に向かうCPUの背中をとらえ始める。
そしてタイムオーバー。
『YOU WIN!』
チームの勝利を告げる派手な演出とともにファンファーレが鳴り響く。
CPUが拠点を守り切ったことで、拓哉のチームが勝利したのだ。
「はあーっ!? ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなーっ こんな最低の勝ち方があってたまるかーっ!」
拓也は怒りにまかせてヘッドセットを床に投げ捨てた。
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